まさおレポート

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世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 細切れメモ

2024-05-16 | 小説 村上春樹
私は泳ぎながらオルフェウスが死の国に辿りつくために渡らねばならなかった冥土の川のことを思いだした。世界には数えきれないほどの様々の形の宗教や神話があるが、人々が死について思いつくことはみんな大抵同じなのだ。オルフェウスは舟に乗って闇の川を渡った。 「言葉のあやだよ」と私は言った。「どんな軍隊にも旗は必要なんだ」 「でもね、もし」と娘は言った。組織《システム》と工場《ファクトリー》が同じ一人 . . . 本文を読む

彼女の首筋にはオーデコロンの匂いがした 世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド

2024-05-16 | 小説 村上春樹
「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」お気に入りの文節メモ。 おそらく街は僕が彼女と寝ることを望んでいるのだろうという気がした。彼らにとってはその方がずっと僕の心を手に入れやすくなるのだ。 セックスというのはきわめて微妙な行為であって、日曜日にデパートにでかけて魔法瓶を買ってくるのとはわけが違うのだ。 「セックスってあなたはいつも前からやるの? 向いあったまま?」「まあね。だい . . . 本文を読む

「現実というのは常にひとつきり」 なんだか量子力学的だなあ

2024-05-15 | 小説 村上春樹
「1Q84」は月も2つある。運転手にも「でも見かけにだまされないように。現実というのは常にひとつきりです。」と念を押されるし。パラレル・ワールドなのだが、「現実というのは常にひとつきり」という世界でもある。青豆と天吾は共通のねじれに似た奇妙な感覚をもっている。多世界宇宙を物語の力で飛んできたためだ。青豆はヤナーチェクのシンフォニエッタの時代から飛んできて天吾は本栖湖の銃撃戦の一派から飛んできた。ヤ . . . 本文を読む

「1Q84」に登場するNHK集金人 すでに去年に無くなっていた事で妙に納得

2024-01-02 | 小説 村上春樹
「1Q84」の読後感について私の過去ブログに次のような言及がある。 生霊の徘徊は彼の作品で繰り返されるテーマ。ふかえりや青豆、牛河のところにも父の生霊がNHKの集金人としてやってきた。海辺のカフカにも生き霊が出現する。なぜ、父が生き霊とならなければならないのか。なぜ空気さなぎに包まれて父のベッドに仄かに発光する青豆がいたのか。父と青豆はなにか関係があるのか。 父の生霊がNHKの集金人としてやっ . . . 本文を読む

聖痴愚の系譜

2023-12-04 | 小説 村上春樹
追記 遠藤周作は私が・棄てた・女の中黒をどんな意図をもって振ったのだろう。今ならわかる気がする。主語、動詞、目的語を重く重く受け止めていたのだ。この中黒にドーンと大太鼓を打ちたかったのだ。主語、動詞、目的語を丁寧に描くことでみつの聖性を浮き彫りにして描きたかったのだと。 2019-04-02 初稿 遠藤周作は好んで聖痴愚を描く。「おバカさん」のガストン、「私が・棄てた・女」の森田ミツ、「深 . . . 本文を読む

さすが村上春樹、記号士はハッカーの文学的飛躍だ いやAIの予兆か

2023-12-04 | 小説 村上春樹
追記 《ブレイン・ウオッシュ》は脳内ビッグデータでシャフリングは生成AIのことを指しているように読めてくる。これが文学の予知性か。曖昧に書いておけばどうとでも好きに読めると反論ももっともだがどう読むかはやはり読み手に依存する。   初稿   「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」を三回目になるが読み返しているとなかなか予言的な文章に出会う。この本は1985年に発 . . . 本文を読む

影は世間のことか Chat GPT-4との対話

2023-04-24 | 小説 村上春樹
ふと思った。村上春樹が描く影とは自分の影以上に世間を表すメタファではないかと。トポロジーとしてみると内側をくるりとひっくり返すと体内が宇宙になり体外つまり世間が自己となる。この辺りの知見をいったのではないか。こう問いかけてみるとCHAT GPT4は以下のように返してきた。もっともらしいような、オーム返しのような。 村上春樹の作品では、影や他の抽象的な概念が多く登場します。影を自分の影以上に世 . . . 本文を読む

「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」上巻 メモ

2023-04-10 | 小説 村上春樹
「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」は村上春樹の比喩の巧みさの展示場だ。 書き抜きをメモしてみた。初稿2012-09-02をリライト。 私は咳払いをしてみた。しかしそれは・・・やわらかな粘土をコンクリートののっぺりとした壁に投げつけたときのような妙に扁平な音が聞こえただけだった P13 粘土を扱ったひとならすぐにぴんと来る。妙に扁平な音! 私はためしに口笛で「 . . . 本文を読む

「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」下巻 メモ

2023-04-09 | 小説 村上春樹
私は水路標識灯の底についたおもりのように暗く愚かなのだ。 P42 ドラマーが振り下ろそうとしたスティックを宙でとめて一拍置くような暫定的ともいえそうなかんじの一瞬の沈黙があった。 P44 それはまるで泥酔した魂がよろめきながらとっかえつっかえ空に戻っていくような眺めだった。 P52 うまいなあ この比喩!2023/4/9追記 体全体が怪我の見本帳みたいになってしまうことだろう。薬局の店 . . . 本文を読む

村上春樹 1Q84でカルト問題を先取りしていた

2023-03-20 | 小説 村上春樹
「1Q84」であるシーンを思い出す。電車に乗り合わせた女の子がエホバの証人と思しき親に連れられていくのをみている。 カルト2世問題(長井秀和や大川宏洋が2世でカルト被害を訴えている)がメディアに取り上げられているが2009年の発行で既に予見している。文学の予見性を感じる。 「母親は日傘を手に、何も言わずにさっと席をたった。・・・何かを訴えるような、不思議な光が宿っていた。ほんの微かな光なのだが . . . 本文を読む

小説 回想の名台詞 「ロング・グッドバイ」 あんたにはさよならを言うべき友達がいた

2022-12-16 | 小説 村上春樹
レイモンド・チャンドラー「ロング・グッドバイ」村上春樹訳を読んで気に入ったフレーズ、気になる台詞を抜き出し感想をメモする。 なんとも思っていないと言うのは嘘ではなかった。私は星と星とのあいだの空間のように、虚ろで空っぽだった。家に戻ると強い酒を作り、居間の開いた窓のそばに行って、それをちびちび飲んだ。ローレルキャニオン大通りを行きかう車がたてる地鳴りに耳をすませ、怒れる大都市が丘の斜面に投げかけ . . . 本文を読む

「海辺のカフカ」 迷いの世界を摘出するだけでなく、ベタではない救いの世界を 村上春樹ももう後がそろそろ無くなりつつあるのだから

2022-11-24 | 小説 村上春樹
2022/11/24追記 下記のリンク先には父との不和と和解の告白が記されている。 不和がなんであるかは書かれていないが深刻な事柄であることは容易に想像できる。母については一切書かれていないのも生々しい原因が父と母との関係にあることを示唆している。 「カラマーゾフの兄弟」の父殺し、神話のそれをベースに精神の深層、阿頼耶識、末那識の世界を現代の筆致で描こうとしたのだろう。エントロピーの発散と収 . . . 本文を読む

村上春樹を再考してみようかな

2022-11-12 | 小説 村上春樹
なるほどなあ。「不可解さをそのまま受け入れる村上作品は、深く考えるべき未解決の神秘を読者に教えるのです」 読むとイライラしてくるので一旦うっちゃってあった村上春樹を再考してみるかな。要はそのまま考えずに受け入れてみれば良いのだ。受け入れてみると言うこととうけいれるとは全く別のものだから。 そして不可解さを味わってみるのだ。不可解を表現するには物語を持ってするほかない。そして不可解とは真実と同じ . . . 本文を読む

マルグリット・ユルスナール「老絵師の行方」と村上春樹「海辺のカフカ」

2022-04-17 | 小説 村上春樹
2020-10-28 14:46:36初稿 「老絵師の行方」マルグリット・ユルスナールによって1936年に書かれた作品では絵の中に入って蒼い窮翠の海に姿を消す絵師が描かれる。原題は「ワンフーの次第」 玲は富豪の息子だが美しく気立てのよい嫁を大事にせず、非現実を追い求めるあまり、嫁は庭の木で縊死する。 ある日の夜に老絵師ワンフーが一夜の宿を借りに来る。老絵師ワンフーは漢の帝国を画題を求めて歩き . . . 本文を読む

村上春樹「小澤征爾さんと音楽について話をする」のメモ

2021-12-25 | 小説 村上春樹
「小澤征爾さんと音楽について話をする」のメモです。 小沢征爾は音楽にマニアックな解釈をしない。というか嫌う。やんわり村上春樹の聴き方をマニアックすぎると批判しているように読めた。世界の村上春樹に音楽にかこつけてこんな批判をさらっと言ってのけるのはやはり小沢征爾くらいのものだろう。音楽家と小説家の距離が忌憚のない意見を述べさせたのだろう。 村上春樹はこの批判に、たしかに音楽にマニアックな好みを求 . . . 本文を読む