週八日

　稀勢の里は失速し、私は帯状疱疹になった。
まったく湿気たシルバーウィークであった。

　見かねた息子が「ラジオでビートルズかかってるよ」と知らせてくれた。
いつの間にかラジオを聞きながら宿題をするようになっていた。

「おとうあがぴえちてよ（父よＩ've got a feelingをかけよ）」
幼児の頃、車に乗るとそう言われ嬉しかった。

　そんな彼にも思春期が近づきつつある、と思えば
ああ面倒くさい。そしてそんな時期に出会うべきが
ビートルズであろう。で、映画館に出かけた。

　郊外のショッピングモール。朝一のシネコンは空いていた。

　多分、貴重な初出映像なんかもてんこ盛りなんだろうが
結局いいものはほとんど世に出ているわけで、
えらく細切れなビートルズダイジェストだな、というのが
正直な印象。

　お、と思ったのはリンゴが叩きながら歌うＢＯＹＳの映像。
しかしすぐフェイドアウト。
そういうのが多い。ウーピ―ゴールドバーグの表情はいい。

　我知らず頬がゆるんだのは、見慣れた絵。
余計なナレーションや編集が施されていないライブ映像で
ジョンとポールがマイクを分け合って歌う、ビートルズには
よくある、けれどこれ程美しい歌手の姿はそうそうないもの。

　劇中のエピソードで初めて知ったことは
アメリカ南部で人種隔離されたコンサートは行わない、
という契約をし、そのような発言をしている映像。
　アコースティックの佳曲、ブラックバードは公民権運動に関するもの、
とは数年前のコンサートでポール自身の声で聞いたが、
そのような時代だったのだ。
　
　ティーン目前の彼は案外楽しんでいたようだ。
ただ、初期ビートルズの映像と音楽の美しさという面では
やはりＡ　ＨＡＲＤ　ＤＡＹ’Ｓ　ＮＩＧＨＴ
から、見せてやりたかった。

　長尺で曲とアドリブと４人の生き生きとした表情を
たっぷり楽しめるからだ。


「ジャーン」Ｇ　ｓｕｓ4の広がりのある和音。
息を飲んだ瞬間に巻き込まれるビートルズとの追っかけっこ。
そのスリル、ウキウキ感。

現代の編集とデータの過多は遠く及ばない。
野暮を言ってすまぬ。

Ｉ　saw her standing there
を好きな娘の前で友人と張り合って歌い
国語の教師に、制止された頃は
ビートルズより年上になるなどとは考えたことがなかった。

　でも引き戻されてしまう。
くだらないな。