開館以来25年のこの劇場の歴史の中で、初めて本舞台にかかったドビュッシーの「ペレアスとメリザンド」である。オペラ芸術監督大野和士率いる東京フィルのピットは極めて雄弁で、ドビュッシーの世界を余す所なく表現し尽くしていた。それは舞台なくしても満足できるほどだったと言っても決して過言ではないほどである。加えてメリザンドにカレン・ヴルシュ、ペレアスにベルナール・リヒター、ゴロにロラン・ナウリ、アルケルに妻屋秀和、ジュヌヴィエーヴに浜田理恵、イニョルドに九鳩香奈枝、医師に河野鉄平という適材適所の配役も万全で、音楽的には非常に満足のゆく仕上がりであった。ただ私は今回のケイティ・ミッチェルの演出を楽しむことはできなかった。それは今回の舞台作りとメーテルリンクの脚本、そしてそれに寄り添ったドビュッシーの音楽との間に少なからずの乖離を感じたからである。だから光に照らされる水の如く、時々に表情を変えて流れる極上の音楽とは裏腹の居心地の悪い時間を過ごした。決して全てを語ることのないがゆえに、読む者の想像力を厭が上にもかきたてるメーテルリンクの台詞をあえて独自に解釈し尽くし、全体をメリザンドの夢と設定することで、本来其々の場に居ない人物まで登場させ、視覚的に全部を曝け出し執拗に説明するという露骨な手法は、作曲者自らその影響から脱却を図ったワーグナーにこそ最適な演出手法だったのではないか。しかしその場で鳴り響いた音楽は、いつになっても耳から離れない。そういう意味で最高のドビュッシー体験だったこともまた事実である。
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