トロのエンジョイ! チャレンジライフ

「人生で重要なことはたった3つ。どれだけ愛したか。どれだけ優しかったか。どれだけ手放したか」ブッダ

連載小説「あなたの騎士(ナイト)になりたい」第2回

2018-06-09 00:16:21 | 小説・あなたの騎士(ナイト)になりたい
 僕はその雑誌を手に取った。日本の雑誌にチェスの記事が載ることなど、元世界王者とスーパーコンピュータの対戦以来ではないだろうか。しかも、「エイリアン」とは、一体どういうことだろう。
 それはさほど大きな記事ではなかったが、僕にとっては頭をガーンと殴られたような衝撃を受けるものだった。

 日本がチェス後進国と言われて久しい。しかしその常識を打ち壊す、一人の天才チェス・プレイヤーが現れた。鳴神美鈴(なるがみみすず)という日本人であり、年齢は18歳。あどけなさを残す顔立ちは、まだ少女といってもいいほどだが、その強さは世界チャンピオンのラルフ・ガーラント氏も舌を巻くほど。

 そのような文章とともに、鳴神美鈴の写真が載っていた。チェス盤に向かって、真剣な表情をしていたが、ショートヘアに包まれた顔は、笑えば結構かわいいかもしれない。しかも18歳とは、僕より6つも年下だ。
 さらに記事を読んでいくと……

 彼女は日本国籍だが、何歳からチェスを始めたのか、誰に教わったのかなど、詳細は不明。その棋風は、外見に似合わず攻撃的であり、敵陣を異星人の襲来のように食い荒らすことから、「エイリアン」の異名をとる。現在のレーティングはおよそ2700。

 2700だって?!
 チェスにおけるレーティングとは、勝率と言い換えてもいいが、要するに数字が大きいほどそのプレイヤーは強いということになるだろう。
 1500から1800くらいなら、アマチュアの間ではほぼ無敵かもしれない。2000以上となると、いったいどれくらい強いのか僕には見当もつかない。チェスを指すことで生活をしているプロでも、2400くらいが平均らしいから、この鳴神という女の子はそれすら超えていることになる。
 ちなみに僕のレーティングは……あえて言わないでおこう。
 なるほど、これはまさしくエイリアンと呼ぶにふさわしいかもしれない。
 こんな人が存在していたとは。
 僕のようなヘボにとっては雲の上のような話だったが、強烈に惹きつけられた。
 僕はその雑誌を買い、帰宅した。アパートを出てから40分ほど経過していた。どうやら思いのほか夢中になって、記事を読みふけっていたらしい。



(つづく)
コメント (2)
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