メイサと7人の外国人たち

アラサー元お水とキャラの濃い外国人達の冒険記

完璧なデート

2019-01-26 02:02:44 | 咲人
「さて。まず君に質問なんだけど、はじめに部屋に行って荷物を置いて休みたい?
それともすぐに観光を始めたい?」



都心部に向かうバスの中で、咲人はそう訊いた。
私が着いたのは郊外にある空港で、遠すぎはしないけど、
そこから咲人の住む都心部まではしばらくバスに揺られる必要があった。
私は一度荷物を置いたほうが便利だと思ったけど、
せっかくここまで来て部屋で一人ぼっちで休むのも勿体無い気がしたので、
咲人と一緒にいられそうな観光を選んだ。
あなたが荷物を持ってくれてるんだから荷物を一度置いた方がいいかな、と言ったら
そんなこと気にするなよと笑われた。
事実私のメインバッグは重かったはずだ。
でも、多分彼のキャラクター的に、咲人はカッコつけてくれたんだと思う。



観光する場所、順番、それからそのための交通。
あと、入園料とかランチ代とか諸々。
咲人は全部スマートにやってくれた。
全部プラン済みで、全部沢山説明してくれて、でもちゃんと私に意見を聞いてくれた。




その靴歩ける?とか
こっち歩きなよ(砂利じゃないから)とか
君が気に入るかわからないから二種類買おうとか
そしてそのどちらも最初に私に試させてくれたりとか



君がしたい方にしろよとか
もっともっと沢山君に見せたいものがあるとか
沢山私の話を聞こうとしてくれたりとか



その国の言葉でしか説明がない時は、
ぜーんぶ通訳みたいに英語に直してくれた。
彼は本当に英語が上手だけど、
だからってプロの同時通訳でもないから、
大変だったんじゃないかと思った。



咲人が沢山私のために準備してくれたこと
(前日に言ったのにね……ごめんよ笑)



咲人が沢山私のことを気遣ってくれたこと



彼は



完璧だった。





「ジャーン」




とちょっとおどけて開けたドアの向こうには
凄く素敵な部屋が待っていた。
咲人が空き家と呼んだそこは、凄く綺麗で手入れが行き届いていて、
ちょっとしたホテル、いや、安いホテルよりは相当いい部屋だった。




「わ……あ」




私は息を飲んでキョロキョロした。
センスのいいソファとランプ。
大きくて寝心地の良さそうなベッド。
真っ白なカーテンは心地よい風ではためいて、 南向きのいい部屋なのもわかった。
こんな素敵な部屋にタダで泊まらせてくれるの??
っていうか咲人、アンタ何者?(笑)




「咲人!私この部屋好き!!」

「はは、気に入った?」

「うん、すっごくすっごく気に入ったわ。凄くいい!
あ、ううん。
I don’t like this room.
I LOVE this room!!」



と勢い良く叫んだ私に、咲人はハハハ、良かったよ、と嬉しそうに笑った。



朝10時に着いたその国で
私達に初デートはあっという間に時間を使い果たした。
夜が更けていくに連れ、綺麗な満月が高いところにかかり始めた。



「登れそう?」



と言って、咲人は私に手を差し伸べた。
もう閉館時間だけど、周りの建物が綺麗だからと連れてこられた美術館は
なぜか工事をしていた。
他に通り道がなく、ちょっとした瓦礫の山を越えて行かなければならなかった。
大したことない山なので、ヒールを履いた私なら越えられたのだけど、
私は素直に彼の手を借りた。




その時、もう10時間以上一緒にいた。
でも、初めて彼の手に触った。



そしてそこから彼は



ずっと私の手を握って歩く



なんて事はしなかった。





咲人、どう思ってるんだろう




ずーーーーーーーーーっととにかく親切だけど




いっっっっこうに何もして来ないし




このサイッコーに便利なきっかけさえ利用せず




手すら繋がない…………



ティーンでもないのに(笑)




あと、あんなに甘い会話をしたのに……





一休みしようとベンチに座った時
咲人は声を上げた。




「ちょっと待ってメイサ。それどうしたの?」




え?




続きます。