スペイン旅行の行きと帰りの飛行機の中と帰宅後に旅行記を書く傍らこの推理小説の古典を読みました。あまりにも有名なアガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』(1939)ですが、実はこれまでまともに読んだことはなかったので、原作に挑戦することにしました。
私が読んだのはHarperCollins出版社の2015年に発行された電子書籍です。このため「インディアン島」は「兵隊島(Soldier Island)」になっていますし、「10人のインディアン」の歌は「10人の小さな兵隊さん(Ten Little Soldier Boys)」になっています。「10人のインディアン」自体も実は変更後のもので、元は「10人の小さな黒人(Ten Little Niggers)」だったそうで、作品の題名も1939年にイギリスで刊行された際はこれだったそうですね。タイトルはアメリカで刊行される際に歌の最後の句をとって「And Then There Were None(そして誰もいなくなった)」に改題されたとのこと。(英語版ウィキペディア参照)
舞台となったデヴォン州の島はBurgh Islandらしいです。
現行版の詩は以下の通りです。()内の日本語訳は詩としてではなく、原文に沿った比較的言葉通りの翻訳にしてみました。
Ten little Soldier Boys went out to dine; (10人の小さな兵隊さんが食事をしに出て行った)
One choked his little self and then there were nine.(一人がのどを詰まらせ、そして9人になった)
Nine little Soldier Boys sat up very late; (9人の小さな兵隊さんがとても遅くに起きた)
One overslept himself and then there were eight.(一人が寝過ごし、そして8人になった)
Eight little Soldier Boys travelling in Devon; (8人の小さな兵隊さんがデヴォンに旅していた)
One said he'd stay there and then there were seven.(一人がそこに残ると言い、そして7人になった)
Seven little Soldier Boys chopping up sticks; (7人の小さな兵隊さんが薪を割っていた)
One chopped himself in halves and then there were six.(一人が自分自身を割ってしまい、そして6人になった)
Six little Soldier Boys playing with a hive; (6人の小さな兵隊さんが蜂の巣をもてあそんでいた)
A bumblebee stung one and then there were five.(一人がマルハナバチに刺され、そして5人になった)
Five little Soldier Boys going in for law; (5人の小さな兵隊さんが裁判に入った)
One got in Chancery and then there were four.(一人が動きが取れなくなって、そして4人になった)
Four little Soldier Boys going out to sea; (4人の小さな兵隊さんが海に出て行った)
A red herring swallowed one and then there were three.(一人が赤いニシンに飲み込まれ、そして3人になった)
Three little Soldier Boys walking in the zoo; (3人の小さな兵隊さんが動物園に行った)
A big bear hugged one and then there were two.(一人が熊に抱きつかれ、そして2人になった)
Two little Soldier Boys sitting in the sun; (2人の小さな兵隊さんが日光浴をしていた)
One got frizzled up and then there was one.(一人が焼けあがって、そして1人になった)
One little Soldier Boy left all alone; (小さな兵隊さんがたった一人残された)
He went out and hanged himself and then there were none.(彼は出て行き首をつり、そして誰もいなくなった)
この恐い詩をなぞるように、兵隊島にゲストとして招かれあるいは使用人として雇われた10人が一人ずつ殺されていくという典型的な「見立て殺人」で、しかも孤島で船が本土から来ない限り出られないという典型的な「閉ざされた空間」で起こる殺人ミステリです。そして最初10体あった磁器の兵隊人形が、一人殺されるたびに一体ずつなくなったり壊されたりしていくのが不気味です。
最後には10体の死体が残され、スコットランドヤードの捜査官二人が頭を抱える事態になります。結局のところ犯人の自白書が届かなければ永遠の謎となっていた事件になります。島にいる10人のうちの誰かが殺人者のはずで、生き残っているものたちがお互い疑心暗鬼になっている中、「死んだうちの誰かが実は死んでいない」というところまでは想像がつくわけですが、それが誰なのかはやはり自白書を読まないと分からない仕掛けになっています(少なくとも私は分からなかった)。
この作品は推理小説の原点と言えるのでしょう。この作品からインスピレーションを得た作品がたくさんあると思います。だからこの作品を読み終わった時にいろんな既視感を感じたのだと考えています。
書評:アガサ・クリスティー(Agatha Christie)著、『And Then There Were None(そして誰もいなくなった)』(HarperCollins)
書評:アガサ・クリスティー(Agatha Christie)著、『Endless Night(終わりなき夜に生まれつく)』(HarperCollins)
ポワロシリーズ