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書評:雪乃紗衣著、『骸骨を乞う 彩雲国秘抄』(角川書店)

2019年04月16日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

久々に『彩雲国物語』を外伝を含めて通読したついでにこの彩雲国「さいご」の物語である『骸骨を乞う 彩雲国秘抄』を読み返してみました。2012年に発行されてすぐに買って読んで、それ以降読み返していないので、7年ぶりです。

『骸骨を乞う』というタイトルや表紙の絵の暗さからも分かるように、別離や喪失を扱う暗いエピソード集です。

収録されているのは『雪の骨ー悠舜ー』、『霜の軀ー旺季ー』、『北風の仮面ー妟樹ー』、『氷の心臓-劉輝ー』、『風花ー仙ー』、『運命が出会う夜ー悪夢の国試組ー』の6編。最後の作品以外はすべて書き下ろし。

『雪の骨ー悠舜ー』の時間軸は劉輝と旺季の玉座を巡る対決から3年後で、彼の子供時代や旺季と過ごした時期の回想を交えながら、王に最後の暇乞い(骸骨を乞う)をして亡くなるまでのエピソードです。王の心の薄闇を唯一埋めることのできた悠舜。悠舜の物語ではありますが、劉輝の内面の孤独がかなり掘り下げられています。その際、楽観的な藍楸瑛やまだ人生経験が足りない李絳攸の二人はともかく、劉輝の兄・元清苑公子である静蘭までひとまとめに王の心の闇を理解できない若い側近たち扱いされているのには若干違和感があります。

『霜の軀ー旺季ー』の時間軸は劉輝と旺季の玉座を巡る対決から10年後。旺季の孫であるリオウが劉輝の養子になったことから外祖父として政治介入しないように朝廷から身を引いた旺季の回想、劉輝の父である「血の覇王」と呼ばれた戩華との因縁や子ども劉輝との関係などが綴られています。なぜ劉輝が悠舜亡き後旺季に執着するのか、という観点から王の内面を掘り下げてもいますが、旺季という人物、【最後の大貴族】と謂われる所以、家臣に「生きる理由」と「死ぬ理由」を同時に与えられる君主としての器が丹念に書き込まれていて、ああ、きっと作者のお気に入りのキャラなんだなと感じられます。

彼の領土にある山家で紅秀麗惨殺計画を榛蘇芳の訪問によって知り、ほかならぬ旺季が下手人の疑いをかけられるように仕組まれていることを見抜き、秀麗救出に1人で向かいます。最後の大仕事を終えて彼の命は散ります。

『北風の仮面ー妟樹ー』の時間軸も同じ10年後で、妟樹の子どもの頃から旺季との出会いなどの回想を交えつ旺季の看病のために朝廷を引いてから山家の事件後に旺季を迎えに行って最期を看取り、葵皇毅が旺季の遺体を受け取りに来るまでを描いたエピソードです。【妖星持ち】といわれる子どもの頃から暗殺を生業にしてきた危険人物キャラですが、旺季だけは彼の美貌や手練手管に落ちることがなくどこまでも公平なところが気に入って、思い通りにならないところが気に入らなくて、好きで、大嫌いで、結局30年も旺季の傍にいて、殺すことなく最期を看取って、遺体をきれいにして、葵皇毅が来るまで待ち、そのあと完全に姿を消すというなんとも数奇な人生。

妟樹が各地の神器を壊して、縹家の大巫女・瑠花の命を狙ったのが黒仙との契約によるものだったことがここで明かされます。開かずの仙洞宮を開ける手伝いの一環だったとか。

『氷の心臓-劉輝ー』の時間軸は山家の事件の少し後、秀麗が官吏を辞めて後宮入りしてから娘を生んで2か月後に死ぬまでの哀しくも幸せなエピソードです。ここでは悠舜の章でダメだしされていた3人の側近たちももう少し大人になったようで、王の心を立て直すために行動できるようになっています。秀麗からのお願いもあるようですが。彩雲国物語の主人公紅秀麗と彼女の王様劉輝のその後のエピソードとして重要なのではありますが、私はなんでかあんまり好きになれません。

『風花ー仙ー』は黒仙の脇侍である黒い3本肢の鴉の視点で悠舜、旺季、秀麗の死が語られます。秀麗の死後に彩八仙の中でも最高位の紫仙が自分の【黒髪の軍師】または【霄大師】としての足跡を人々の記憶から完全に消去しますが、彼と50年間共に居た宋太傅だけは変わらずに彼と茶鴛洵と自分のために盃3つ用意します。仙の力で持っても記憶を持ち続ける人間が時々いるーそれが仙が幾度も人間界に降りてくる理由ー

『運命が出会う夜ー悪夢の国試組ー』は書下ろしではなく「The Beans」Vol.12~13に掲載された作品の大幅改稿。旺季に頼まれて、悠舜が「鄭」という姓を使って平民として国試を受け、紅黎深、黄鳳珠、管飛翔、来俊臣、姜文仲、劉志美に出会うエピソード。黎深や飛翔のやらかす騒動よりも平和な時代に適応できない元兵士劉志美の悲哀の方に重点が置かれています。

 

彩雲国物語は明るく軽く始まって、暗く重く終わりましたね。深みが出てきたと言えるので悪いとは思えませんが、通読するとやはりその変貌ぶりに驚きます。

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