徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:アルベール・カミュ著、宮崎嶺雄訳、『ペスト』(新潮文庫)

2023年04月03日 | 書評ー小説:作者カ行

アルベール・カミュの『ペスト』は近代フランス文学の代表作の一つで、作者名と題名は知っているものの、実際に読んだことはないという方は少なくないのではないでしょうか。
少なくとも私はその一人で、この度、電子書籍の安売りがあったので『異邦人』と共に購入し、ようやく実際に読んでみました。

アルジェリアのオラン市で、医師のリウーが鼠の死体を発見するところから始まる本作品は、その題名の通りペストがいかにやって来て、またいかに去って行ったかを語ります。その語り口は淡々としており、非常に鋭い観察眼がいかんなく発揮されています。
ペスト自体に対する恐怖もさることながら、街が封鎖されてしまうことで余儀なくされる別離やさまざまな不便さと、それによる人々の緊張・不安・焦燥、親しいものを失くす悲しみ、そして、時と共に諦めにも似た慣れなど、人々の反応はつい最近のコロナパンデミックで見られたものとほぼ同じと言えます。
ただ、現代ではSNSがあるため、人と人のつながりが完全に切断されてしまうことがありませんが、カミュの描くオラン市の人々は通信手段が基本的に一切なく、ごくまれに電報を打てるくらいでした。
ペストによって変貌を遂げる人、変わらない人、どちらも描かれています。キリスト教者としてペストをどうとらえるべきか、ちょっと異端的な説教をする司祭。また、逃げ出そうと懸命になっていた新聞記者が、逃げる算段をつけて、いよいよというところで踏みとどまり、医師リウーを助ける決意をするなど、人それぞれの葛藤が共感を呼ぶところでしょう。

ただし、宮崎嶺雄訳はいただけないですね。昭和44年の発行であるせいか、翻訳文学であることが丸分かりの文体で、日本語としては不自然で読みにくい箇所が多数あります。新訳が出るのも無理もない話です。

書評:松岡圭祐著、『高校事変 13』(KADOKAWA)

2023年04月03日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

『高校事変 13』では、これまでのシリーズの主人公・優莉結衣が大学生となったため、その妹の凛香が高校生となって活躍します。常に姉を意識して自分の至らなさ・ふがいなさに悔しい思いをしながらも、以前に比べて世を拗ねて不貞腐れた感じが少なくなっています。

ストーリーは、高校入学を控えた凛香が江東区の閑静な住宅街にある神社で同年代の少女・杠葉瑠那と会うことから始まります。瑠那は結衣や凛香同様、平成最大のテロ事件を起こし死刑となった男の娘。しかし、本人はそのことを知らずに養父母に育てられたらしい。凛香はただ、彼女に親切心(?)警告をするつもりだった。

優莉家の異母兄弟たちは互いに連絡を取り合うことを制限されているのですが、凛香と瑠那は偶然(?)同じ高校に通うことになり、特例が認められます。

一方、巷では女子高生が次々と失踪する事件が起こっており、凜香の周りにも不穏な影が忍び寄ります。

少しネタバレになりますが、女子高生連続失踪事件には『千里眼』シリーズの「恒星天球教」の生き残りが絡んできます。異なるシリーズのキャラクターや団体が登場することで、松岡ワールドあるいはサーガが紡がれていくのは読んでいて楽しいです。

今後は「恒星天球教」の生き残りの背後にいた黒幕との戦いになりそうです。
この巻は凛香と瑠那の出会い編で、次巻から二人の活躍と成長の物語が本格的に始まるみたいですね。
松岡圭祐の場合、ストーリーを忘れないうちに続編が出るのがありがたいです。

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