徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:中山七里著、御子柴礼司シリーズ1~6(講談社文庫)

2023年04月28日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

『作家刑事毒島』シリーズですっかり中山七里に嵌まってしまい、次は御子柴礼司シリーズを一気読みしました。文庫化されているのは5巻までの『贖罪の奏鳴曲』『追憶の夜想曲』『恩讐の鎮魂曲』『悪徳の輪舞曲』『復讐の協奏曲』。
3月末に発売されたばかりの最新刊『殺戮の狂詩曲』は単行本。

本シリーズの主人公・御子柴礼司は、本名を園部信一郎といい、14歳のときに近所の5歳の少女を殺して切り刻み、切り取った頭や四肢をポストや賽銭箱の上などに置いたことから〈死体配達人〉として全国を震撼させ、関東医療少年院に入ります。そこで新しい名〈御子柴礼司〉を得て、そこでの出会いをきっかけに贖罪のために生きることを決意し、猛勉強をして司法試験に受かり、弁護士として活躍するようになります。ただし、法外な弁護士料を要求する〈悪徳弁護士〉として名を馳せています。それでも勝率が9割以上であるため、顧客はいくらでもいます。そんな中で、時々気まぐれに(?)一文の得にもならず、勝ち目がないような刑事裁判の国選弁護人を引き受けたりして、周囲を驚かせます。
彼の職業倫理は一貫しており、親であろうが、イワシの頭であろうが、弁護人の利益のために全力を尽くすということです。

第一作は、御子柴礼司が死体を遺棄するシーンから始まるため、彼が何のためにそれをしたのか、本当の殺人犯は誰なのかという謎を追うミステリーで、意図的な読者のミスリードやさりげない伏線が随所に散りばめられており、非常に読み応えがあります。



続編の『追憶の夜想曲』では、夫殺しの容疑で懲役十六年の判決を受けた主婦の弁護を御子柴礼司が突如希望する。対する検事は因縁の相手、岬恭平。なぜ高額報酬を要求することで有名な御子柴が、大した報酬を望めないような主婦・亜希子の弁護をしたのか 、真相はどこにあるのか、第二審の判決はどうなるのか。
御子柴が報酬度外視で弁護を引き受けた理由は、彼の過去の犯罪と関係している。
リーガルミステリーの山場である法廷シーンは、臨場感たっぷりの描写で、どんでん返しの真実が明らかにされるクライマックスまで一気に駆け抜ける筆致。
しかし、法廷で彼の〈死体配達人〉としての過去も公になってしまい、彼の今後が危ぶまれることに。

第三弾『恩讐の鎮魂曲』では、〈死体配達人〉としての過去が公になってしまってさすがに依頼が激減し、事務所の移転を余儀なくされた御子柴が、少年院時代の教官・稲見が老人ホームの介護士殺人容疑で逮捕されたことを知り、恩師の弁護を力尽くでもぎ取ります。しかし、当の本人は罪を認め、相応の罰を受けることを望んでおり、無罪判決を勝ち取ろうとする御子柴の指示にまったく従わない。恩師の意志に反して、御子柴は殺人事件の起こった老人ホームを何度も訪れ、真相に迫ろうとします。
この巻は、御子柴の調査過程の方が読み応えがあります。普段は冷徹な論理に徹する御子柴が恩師のせいでやや感情を乱されるのも、少し微笑ましいかも。


第4巻『悪徳の輪舞曲』では、御子柴が少年院に入所して以降、消息を絶っていた妹・梓がいきなり現れ、旦那殺しの容疑で逮捕されたという母・郁美の弁護を依頼しに来ます。再婚相手の成沢琢磨は資産家であったため、遺産目当ての殺人と見られていた。成沢は鴨居に縄をかけた首吊り自殺のように偽装されていたらしい。御子柴礼司の実父も首吊り自殺を図り、その保険金でもって〈死体配達人〉被害者の遺族への賠償金の一部を支払った。この首吊り自殺も実は母・郁美の偽装殺人だったのか。親子二代の殺人ということで、いやが応にも世間の注目を浴びるが、その真相は?
30年ぶりの母子対面で、御子柴礼司の心にもまた少し変化が現れるため、成長物語としての側面もあります。



シリーズ第5弾の『復讐の協奏曲』では、御子柴の法律事務所で世間の悪評にもかかわらずなぜか事務員として居座り続ける日下部洋子に殺人容疑がかけられます。彼女がある女性の紹介で知り合った外資系コンサルタント・知原と夕食に出かけた後、知原が殺されてしまい、凶器からはなぜか洋子の指紋が発見されたのだ。
御子柴はもちろん彼女の弁護を引き受ける。一方で、〈この国のジャスティス〉と名乗る者の呼びかけにより、800人以上から懲戒請求書が事務所に届いており、返り討ちのための事務処理が洋子不在で滞っていたので、御子柴が世話になっている弁護士会元会長の口利きで、かつて過払い返還請求を専門に手広くやっていた弁護士・宝来兼人が事務の手伝いをすることになります。
御子柴と宝来の駆け引きも面白い。
宝来が手伝いに来たことで、御子柴は洋子の弁護に専念できるようになり、彼女の過去を調べていくうちに、彼と出身地が同じであることが判明する。彼女は、実は御子柴に殺された少女・佐原みどりの親友だったのだ。親友の仇とも言える御子柴のそばで働いていた洋子の意図は何だったのか。
前回の母と妹に引き続き、今回は〈死体配達人〉の被害者の関係者と対峙することになります。

最新刊の『殺戮の狂詩曲』では、高級老人ホームの介護士がある夜、〈役立たずの老人の駆除〉計画を実行に移し、9人の入所者を殺害する。彼の計画では入所者29人全員を殺害する予定だったが、同僚たちに取り押さえられた。とはいえ、令和最悪の凶悪殺人事件。死刑判決間違いなしの犯罪だが、当の本人は社会正義のための行為として、まるっきり罪の意識がない。この最低の被告人に、かつての〈死体配達人〉である御子柴礼司が弁護を引き受けるが、その意図は何なのか? 懇意にしている広龍会の外部交渉人・山崎も、事務員の洋子もこれだけは思いとどまるように忠告するが、御子柴は宣伝効果があると見え透いた露悪的な理由付けをして、忠告を一切取り合わない。
被告人は現行犯逮捕されたようなもので、証拠が山ほどあり、本人も行為を認めているため、「罪」として認めてないにせよ、ひっくり返しようがない状況で、御子柴が何をどうひっくり返そうとするのかが見ものです。


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