松岡圭祐と同じくらい多作で知られている中山七里の作品を始めて読んでみました。
『作家刑事毒島(ぶすしま)』シリーズは、捜査一課の刑事でありながら作家を兼業する毒島真理の鋭い舌鋒と洞察力によって事件解決に至る短編から成ります。
シリーズ第一作『作家刑事毒島』では、警視庁捜査一課の新人刑事・高千穂明日香が刑事技能指導員の毒島真理に事件についての相談を持ち掛け、彼の傍若無人ぶりに振り回されながら、着実に事件を解決していくというストーリー構成です。
容疑者として登場するのは、新人賞受賞したばかりの作家や受賞後の二作目をなかなか出せない作家、あるいは作家になりたくて様々な賞に応募し、一時落ちし続けて、自分が落ちるのは陰謀だと思い込む人など、出版界の影に跋扈する大いに勘違いした人々。彼ら彼女らに対して毒島はまったく容赦がない。
勘違いしている人たちというのは、イタイものですが、そこまでコテンパンにしてしまうのか、とちょっと驚きますね。著者の私情がここに現れているのかもしれません。
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第二作の『毒島刑事最後の事件』は、毒島が刑事を辞めて作家になる前の、そのきっかけとなった事件を扱います。いわゆる〈エピソードゼロ〉というものです。皇居周辺で二人の男が射殺され、『大手町テロ』と呼ばれる事件。出版社の連続爆破、女性を狙った硫酸攻撃。 それぞれ独立した短編でありながら、どの事件にも絡んでくる謎の存在〈教授〉。〈教授〉とは誰なのか、また、彼を殺人教唆などの罪で告訴可能なのか?
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第三作『作家刑事毒島の嘲笑』は、第二作と同じ短編構成で、どの事件にも共通する謎めいた存在「急進革マル派」 を作家兼業の毒島刑事が追います。
保守系の刊行物で有名な出版社への放火事件が起こり、公安一課の淡海奨務は、左翼集団の犯行とみて捜査を開始しますが、そこで毒島と出会い、行動を共にすることになります。
ブラック企業での過労自殺や沖縄の基地問題、様々な市民運動に参加して陰で資金提供を受ける〈プロ市民〉と呼ばれる活動家などの社会現象・問題を取り上げながら、そのように見られる事件の裏にある意外な真実を暴いていきます。
「急進革マル派」の正体は意外過ぎな感じがして、納得感が今一つでしたが、ストーリー展開はテンポよく、毒島の毒舌も相変わらずキレッキレで面白いです。
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