徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:孫崎享著、『アメリカに潰された政治家たち』(小学館)

2016年04月03日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

孫崎享著『アメリカに潰された政治家たち』(小学館、2012年10月28日、第3刷)は221ページで同氏の『戦後史の正体』や『日米開戦の正体』に比べると小ぶりな本です。

目次は以下の通り。

序章 官邸デモの本当の敵

第1章 岸信介と安保闘争の真相

    1. 安保闘争神話の大ウソ
    2. 岸信介とCIAの暗躍
    3. メディア・官僚の対米追随体制

第2章 田中角栄と小沢一郎はなぜ葬られたのか

    1. 田中角栄が踏んだ「本当の虎の尾」
    2. 最後の対米自主派、小沢一郎
    3. アメリカにNOと言った政治家たち

第3章 戦後最大の対米追随政権

    1. オスプレイが示した野田政権の本性
    2. 日米地位協定という不平等条約
    3. TPPで日本経済が崩壊する
    4. 尖閣問題で得するアメリカ

特別鼎談 2012と1960 国民の怒りが政権を倒す日

終章 本当の「戦後」が終わるとき

特別付録 アメリカと戦った12人の政治家
(鳩山一郎、石橋湛山、芦田均、重光葵、岸信介、佐藤栄作、田中角栄、竹下登、梶山静六、橋本龍太郎、小沢一郎、鳩山由紀夫) 

 

大まかな内容は同氏の『戦後史の正体』の焼き直しで、焦点が多少対米自主路線の「潰された」政治家に移行している程度なので、ロッキード事件やリクルート事件や小沢一郎逮捕に関しては詳しくなっているものの、『戦後史の正体』を読んだものからすると、この本を買うだけの価値があったのかどうか疑問に残るところ。また、領土問題に関しても、同氏の『日本の領土問題―尖閣・竹島・北方領土』との内容的重複は否めません。
しかし、孫崎享x長谷川幸洋x高橋洋一の特別鼎談「2012と1960 国民の怒りが政権を倒す日」(初出:「週刊ポスト」12年8月17・24日号)は興味深い内容で、読み甲斐がありました。でも、この記事も週刊ポストで読んでしまっている人にはこの本を買って読む価値はないのではないでしょうか?

どれも読んだことない方のために、踏んではならないアメリカの「虎の尾」とは:①米国抜きの日本の独自外交、特に日中関係の強化や、②日米軍の削減・または撤退、③冷戦後は日本の経済的繁栄(これを崩すためのプラザ合意、米国債買い、TPP)です。アメリカに都合のよくない政権は短命になります。その為に活躍したのがGHQであり、CIAであり、親米派の官僚やマスメディアです。

こうして50年間放置されてきた日米地位協定という不平等条約ですが、さすがに50年間の歪みが噴出しだしているようで、SNSの普及に伴って草の根的な民衆運動が活発となってきています。1960年のいわゆる≪60年安保闘争≫と違う点は、デモの参加者たちが組織されていないということ。個人個人の判断でSNS情報を元にふらっとデモに参加しており、イデオロギーとは別に自分で考えた意見を発言しています。そして多くの人たちが政府の背後にアメリカを見ており、政治家の言うこともメジャーメディアの言うことも、少なくとも盲目的には信頼していないということも特徴的です。そうした動きを「プロ市民」だとか「中核派」だとか根拠もなく中傷する向きもあるようですが、純粋に日本の国益を考えるならば、米軍関係者が日本国内で起こした犯罪に対する日本の裁判権を放棄させ、民意と関係なく基地を設置させ、事故の危険性の高いオスプレイを好きなように配備させるのを許しているような日米地位協定に賛成できるわけがありません。日本は米軍に多大なる譲歩をしていますが、アメリカには日本を守る義務などないのですから。モンデール駐日大使は、1986年にニューヨーク・タイムズ紙で、「米国は(尖閣)諸島の領有問題にいずれの側にもつかない。米軍は(日米安保)条約によって介入を強制されるものではない」とまで明言し、その後事実上解任されています(孫崎『アメリカに潰された政治家たち』、p164)。これがアメリカの本音であるにもかかわらず、尖閣問題が緊張するたびに在日米軍必要論が浮上するのはおかしな論理です。日米安保条約第5条に従えば、日本領土が攻撃された場合、「自国の憲法上の規定及び手続きに従って」、米議会の承認が得られれば米軍の出動をするが、承認がなければ出動しなくてもいいことになっているのです。そして中国が仮に尖閣諸島を実効支配してしまった場合、そこは「日本国の施政下」でなくなるため、安保条約の適用範囲外となり、米軍出動はもっとあり得なくなります。つまり、アメリカは日本でやりたい放題で、犯罪を犯しても裁かれることなく、多発しているレイプ被害者たちは泣き寝入りするしかなく、仮にオスプレイが民家に墜落したとしても、米軍はオスプレイの残骸の撤収のみを素早く済ませ、被害を受けた民家や犠牲者などは放置することが火を見るより明らかなのに、日本が攻撃を受けた場合に防衛を支援する義務すらないのです。米議会にかけさえすれば、アメリカ側の義務は終了です。その事実を踏まえた上で、なお「アメリカが守ってくれるから日米関係は重要」と信じるなど愚鈍以外の何物でもありません。

TPPも、日本にメリットは殆ど無く、デメリットの方が大きいです。真に国益を考えるならば、TPPに反対すべきですし、「投資家保護」条項による民主主義のこれ以上の空洞化を許すべきではありません。

「投資家保護」条項はEUとアメリカ間の自由貿易協定TTIP及びEUとカナダの協定CETAにも含まれており、またその交渉の秘密性も厳しい批判の対象となっており、ヨーロッパ中で反対署名運動が活発になされています。にもかかわらずEUは加盟各国議会の承認がなくても両条約を仮批准するというのですから、とんでもない話です。そこまで非民主的に強行する理由は何なのか、一般市民はその真意を厳しく問いただすべきだと私は考えます。TTPもTTIPも米企業・米投資家のためのものであって、参加国の国民のためのものでないことは明白です。米国民のためですらないのです。そのため、アメリカにも反TPPの市民運動が存在しています。

原発も米企業のためのものです。世界中の脱原発の動きはアメリカにとって不都合なのです。アメリカ国内ではとっくに原発が不経済であることが認識され、再生可能エネルギーへの転換がとっくに動き出しているにもかかわらず、日本にそれをやられるのは困る、という勝手な言い分をぶちまけ、日本に様々な圧力をかけて、日本の原子力マフィアをたきつけ、原発再稼働のための工作をしているわけです。その事実を踏まえた上で、なお原発再稼働が日本の国益のためであると信じられる人はやはり愚鈍であるか、または自身が原子力マフィアの一端を担い、自分の利益しか考えていないかのどちらかでしょう。

そうした背景を踏まえて、私は元外務省国際情報局長である孫崎氏の啓蒙活動を100%支持しています。この本はちょっと外れでしたけどね。まあ、孫崎氏の活動のため資金調達にちょびっと貢献した、ということで納得するしかないですね。


 

書評:孫崎享著、『戦後史の正体 「米国からの圧力」を軸に戦後70年を読み解く』(創元社)

書評:孫崎享著、『日米開戦の正体 なぜ真珠湾攻撃という道を歩んだのか』(祥伝社)

書評:孫崎享著、『小説外務省 尖閣問題の正体』(現代書館)

書評:孫崎享著、『日本の国境問題ー尖閣・竹島・北方領土』(ちくま新書)

書評:孫崎享著、『小説外務省2 陰謀渦巻く中東』(現代書館)