徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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ドイツ:2018年バイエルン州&ヘッセン州議会選挙~メルケルは次期党首選の出馬辞退

2018年10月29日 | 社会

昨日(2018年10月28日)はヘッセン州の州議会選挙でした。2週間前にあったバイエルン州議会選挙同様、今後のメルケル政権の運命を決する選挙として注目されていました。両選挙とも政権与党(CDU、CSU、SPD)がそれぞれ10ポイント以上得票率を失い、極右政党AFD(ドイツのための選択肢)と緑の党が躍進した点で共通しています。州議会選挙を戦った当事者たちの党本部に対する不満が大きく吹き出しています。というのは、州議会選挙で、州独自の課題が問題にされず、もっぱらベルリン中央政府に対する不満が投票行動に反映されたことがアンケート調査で明らかになっているからです。

この両州の歴史的に見ても壊滅的な選挙結果を受けてメルケル首相は今日、12月のCDU党首選には出馬しないことを表明しました。これまでメルケルは「首相職と党首職は一体」との考えで、首相任期中は党首の座も保持すると表明していましたが、さすがに2つの州議会選挙に連続で2桁台の敗北になんの反応もしないわけにはいかず、党内の圧力が強まる中、「出馬辞退」を表明するに至ったようです。

なぜここまで「国民政党」と呼ばれる伝統政党が大敗するに至ったのか、理由は短期的なものと中長期的なもののがあります。

短期的には現在の「大連立」による第4期メルケル政権発足自体にSPD(ドイツ社会民主党)の下部組織や支持層が反対して、党内投票が行われるなどのケチがついたこと、その後難民政策に関連してCSU党首マルクス・ゼーダーと現内相ホルスト・ゼーホーファー(元CSU党首)の見るに堪えないケンカ(レベルが低くて「議論」と呼べない)、その間のメルケルの沈黙(CSUに対する指導力なし)、テロリスト「アニス・アムリ」に関して失態を犯した憲法擁護庁長官ハンスゲオルグ・マーセンの進退を巡り、更迭ではなく逆に昇進人事を決定(後に厳しい批判を受け取り消す)、ディーゼルスキャンダルにおける消費者ないがしろの対応(不正車の必要装備の後付けの消費者負担など)、都市部の大気汚染が基準値を大幅に上回ることによって差し迫った「車両走行禁止令」(特にディーゼル車が禁止対象)、それに対してメルケルが打ち出した「法改正」(抜本的な改善策を打ち出すのではなく、基準が守れないから基準自体を変える)などといった、本当に「目に余る」としかいいようのない最近の状況があります。

中長期的な理由としては、本来なら保守対革新で対立する筈の伝統的国民政党による連立政権が長期化することによって、両陣営の違いが不透明になったこと、「妥協」政策によって支持層の党に対する期待が裏切られたことなどが挙げられます。本来の支持層でない有権者においても長期化によって、「何も変わらないこと」に対する飽きや倦みが強まっているという側面もあります。

極右政党AFD(ドイツのための選択肢)にとってヘッセン州議会選挙は「歴史的快挙」となりました。ヘッセンから始まったAFDは2013年の時点では5%の壁を突破することができませんでしたが、各州議会選挙で躍進を続けて議会入りし、ヘッセン州をもって全州の議会を制覇したことになるため、当初の得票目標は果たせなかったものの、「ミッション・コンプリート」であると祝賀ムードに包まれています。

同じく大きく躍進した緑の党は、「躍進できるのは極右ばかりでないことを証明した」「新しい国民政党としての役割と責任を果たす」などと政党としての自信を深め、希望に燃えているというところでしょうか。個人的には緑の党にいろいろと疑問を抱いていますが、AFDだけが躍進するよりは緑の党が成長する方がずっとましな社会状況であるとは思っています。ドイツ社会の右傾化を快く思っていない勢力がまだまだ強いことの表れであり、健全な民主主義社会の継続には必要なファクターです。

では具体的な選挙結果を見て行きましょう。

バイエルン州議会選挙

バイエルン州議会選挙の投票率は72.4%で、2013年度の投票率63.6%を8.8ポイント上回りました。

各党の得票率

CSU(キリスト教社会主義同盟) 37.2%
SPD(ドイツ社会民主党) 9.7%
FW(自由有権者) 11.6%
Grüne(緑の党) 17.5%
FDP(自由民主党) 5.1%
Linke(左翼政党) 3.2%
AFD(ドイツのための選択肢) 10.2%
その他 5.4%

2013年度の得票率との比較

CSU(キリスト教社会主義同盟) -10.4ポイント
SPD(ドイツ社会民主党) -10.9ポイント
FW(自由有権者) +2.6ポイント
Grüne(緑の党) +8.9ポイント
FDP(自由民主党) +1.8ポイント
Linke(左翼政党) +1.1ポイント
AFD(ドイツのための選択肢) +10.2ポイント
その他 -3.3ポイント

 

議席配分

総議席数205、絶対多数103。


最重要課題

難民/統合 33%
住宅市場/家賃 23%
学校/教育 13%
環境/エネルギー転換 12%
CSU 内部抗争/状態 10%

バイエルン州の単独政権与党であったCSUの内部抗争が「最重要問題」として挙げられていることには苦笑を禁じ得ませんが、実際元党首ゼーホーファーと現党首ゼーダーの抗争は目に余る醜さでした。後になって本人たちも「行き過ぎだった」「品位に欠けていた」などと反省表明してましたけど、後の祭りです。

政党に関するステートメント

「CSUは、何がバイエルン州にとって大事なのかという感覚を失った」― はい 65%、いいえ 33%

「緑の党バイエルン支部は現代的な市民政治を象徴している」 ― はい 55%、いいえ 41%

 

ヘッセン州議会選挙

ヘッセン州議会選挙の投票率は67.3%で、2013年度の73.2%を5.9ポイント下回りました。

各党の得票率

CDU(キリスト教民主主義同盟) 27%
SPD(ドイツ社会民主党) 19.8%
Grüne(緑の党) 19.8%
Linke(左翼政党) 6.3%
FDP(自由民主党) 7.5%
AFD(ドイツのための選択肢) 13.1%
その他 6.5%

2013年度の得票率との比較

CSU(キリスト教民主主義同盟) -11.3ポイント
SPD(ドイツ社会民主党) -10.9ポイント
Grüne(緑の党) +8.6ポイント
Linke(左翼政党) +1.1ポイント
FDP(自由民主党) +2.5ポイント
AFD(ドイツのための選択肢) +9.1ポイント
その他 +0.9ポイント

議席配分

総議席数137、絶対多数69。

 

最重要課題

学校/教育 33%
住宅市場/家賃 26%
難民/統合 22%
交通政策 16%
ディーゼルスキャンダル/車両走行禁止令 12%

メルケルが二酸化窒素のEU基準値を超過しているドイツの51都市に関して、超過分が微小であるためディーセル車両走行禁止令は過剰な対応であるとし、禁止令発布を難しくする法改正の提案をしたのは、ヘッセン州議会選挙までのカウントダウンが1週間を切った時点です。ヘッセン州の選挙をCDUに有利にするための一策であることがばればれで、また根本的な基準を満たせるようになるための解決策ではなく、基準自体をないがしろにしてしまおうとする後出しじゃんけんのような愚策のため、国内ばかりかEUからも厳しい批判が出ました。

私がVWまたはアウディのディーゼル車を買っていたとしたら、堪忍袋の緒が切れるほど憤慨するだろうと思います。なぜなら、ディーゼル車購入者はこれで2重に騙されることになるからです。彼ら彼女らは環境のことを鑑みて、「クリーンディーゼルだから」という理由で割高のディーゼル車を購入したはずです。ところが不正が発覚し、「クリーン」ではなかったため、実際の排気量に応じた車両税が上乗せされる羽目になり、不正を是正するために必要な装備の後付けはアメリカと違ってドイツでは自己負担という結論がメルケルと自動車企業間で取り決められました。その上大気汚染の基準値超過のため、ヘッセン州の首都フランクフルトなどではディーゼル車走行禁止令が発布される可能性が高くなり、通勤や営業などに必要なディーゼル車での移動に差しさわりが出ることを心配しなくてはなりません。そこで禁止令が出ないとなれば、確かに最後の心配だけはなくなるかもしれませんが、もともと大気汚染をひどくしたくて「クリーン」ディーゼル車を購入したわけではないので、このような欺瞞に満ちた小手先の小細工を喜べるわけがないですよね?

メルケルは元々「Industrienutte(産業界の売女)」と揶揄されるような政治家でしたが、それでもその時々の空気を読んで臨機応変に対応することに長けていたため、これまで人気を維持することができました。しかし最近は空気を読むことの連続して失敗しているようです。

参照記事:

ZDF heute, "Kanzlerin macht Platz frei- Merkel tritt nicht mehr für CDU-Parteivorsitz an(首相、権力の座を明け渡す。メルケルはCDU党首選の立候補を辞退)", 29.10.2018

ZDF heuteの選挙特集記事多数。