『The Mirror Crack'd From Side To Side(鏡は横にひび割れて)』は1962年に刊行されたMiss Marple(マープル)シリーズの第8作目。原題は、Alfred Lord Tennysonの詩『The Lady of Shalott(シャロット姫)』に由来します。題辞として引用されているのは以下の4行です。
Out flew the web and floated wide; (織っていた布が窓から飛び出て風に舞い)
The mirror crack'd from side to side;(鏡は横にひび割れて)
'The curse is come upon me,' cried(「呪いがかけられた」と叫ぶ)
The Lady of Shalott(シャロット姫。)
老婦人探偵Jane Marple(ジェーン・マープル)の住むSt Mary Mead(セイント・メリー・ミード村)にあるお屋敷Gossington Hall(ゴシントン・ホール)にアメリカ女優Marina Gregg(マリーナ・グレッグ)が映画監督の夫Jason Rudd(ジェイソン・ラッド)と共に引っ越してきます。とある福祉団体のためにゴシントン・ホールで開かれたチャリティーパーティーで、福祉団体関係者の女性Heather Badcock(ヘザー・バドコック)がマリーナ・グレッグに挨拶して間もなく変死してしまいます。彼女の飲んだグラスには精神安定剤Calmoが通常容量の六倍混入していました。しかし彼女が飲んだグラスはマリーナ・グレッグのものだったため、ヘザーはマリーナの代わりに死んだということになります。屋敷内の階段室に招き入れられたのはおよそ20人。この中の誰かがCalmoをグラスに入れたのか、あるいは給仕をしていた家人や臨時雇いの者が誰かに頼まれて入れたのか?
捜査はスコットランドヤードのDermot Craddock(ダーモット・クラドック)警部が担当し、部下と共に関係者の聞き込みをしますが、探偵の叔母ジェーン・マープルと情報を共有して犯人を探ります。
そうこうしているうちに、イタリア人執事Giuseppe(ジュゼッペ)と秘書のElla Zielinsky(エラ・ジリンスキー)が同じ夜に殺されてしまい、そのすぐ後でマリーナも睡眠薬の取り過ぎで亡くなってしまいます(自殺か他殺か?)。
なんだか救いようのない話です。シャロット姫に見立てられているのはマリーナです。彼女がヘザー・バドコックと挨拶して、ヘザーが語りかけている時に呪いでもかけられたような凍り付いた眼をしていたためです。マリーナ自身はそういう目つきをしたことを否定しますが、少々表現は異なるものの何人かの証言があるため、彼女が何に驚いたあるいは恐怖したのかが捜査の焦点となります。
病み上がりのミスマープルが事件のことを考え出した途端に頬を紅潮させ、生き生きとしてくるあたりはなんだか微笑ましいキャラクター描写ですが、ストーリーはそれほど夢中になれるものではありませんでした。残念。
書評:アガサ・クリスティー(Agatha Christie)著、『And Then There Were None(そして誰もいなくなった)』(HarperCollins)
書評:アガサ・クリスティー(Agatha Christie)著、『Endless Night(終わりなき夜に生まれつく)』(HarperCollins)
ポワロシリーズ