徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:堀元見著、『教養(インテリ)悪口本』(光文社)

2022年10月01日 | 書評ーその他

『教養(インテリ)悪口本』というタイトルを見て「なんだその意地の悪そうな本は⁉」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、インターネット(特にSNS)には何のひねりもない「ばか、死ね」的な書き込みが溢れていることを考えれば、悪口を一ひねりして、ユーモアをもって笑い飛ばそうという著者・堀元見は、むしろ心優しいと思えませんか?

悪口は誰も幸せにしない。言われた方はもちろん、言う方も聞く方も皆気分を害してしまうものです。どうやら、脳は主語を区別せずに情報処理するらしく、言われた悪口を「自分のこと」として変換してしまうようで(どこかで読んだ心理学研究の結果)、それゆえに悪口を言うことで、自分が悪口を言われたのと同じくらい腹が立つようです。悪口を言えば言うほどどんどん腹が立って来るという経験をした方も少なくないのではないでしょうか?これはつまり、脳が「自分が貶されている」と変換してしまうことによるらしいです。
だから、悪口は言わないに越したことはないわけなのですが、それでもどうしても何か言いたくなる時もやはりあることでしょう。
そういう時に、教養がないと分からない・言えない悪口を言って楽しむことができれば、不快感を愉快に変換できるかもしれません。

著者がまえがきで紹介しているエピソードがそのカタルシス効果をよく表しています。大学時代の同期に、ちょっとずれた空気を読まない人がいて、何人か集まった時に「あいつウザくね?」という話になり、悪口がエスカレートしていったそうですが、その中の1人が「ただし人間関係の摩擦は無視できるものとする、と思ってるのかもな」と言ってことで、場の空気が一転して「そっかー、物理の問題を解きすぎたのかもしれないね」とみんな笑い転げたというお話でした。
理系の学生が物理の問題集でいやというほど目にする「ただし摩擦は無視できるものとする」という文言の応用でこれだけ笑いが取れ、悪口大会の淀んだ空気を一気に吹き飛ばすパワーがあったことに感銘を受けた著者はその後、そういうユーモラスなインテリ悪口を探すようになり、ついに本を一冊出すまでになってしまったとのことです。

本書に挙げられている「インテリ悪口」のすべてが面白いというわけではありませんが、ツボにはまるものがいくつもあって、いい笑いを頂きました。自分が使う機会があるとは思えませんが。。。
何かしらウィットに富んだ悪口を言ってマウントを取りたい方には本書はうってつけの実用書と言えるでしょう。

私自身は、仕事が詰まって閉塞感を抱えているときに、仕事の合間を縫って本書を読み、気持ちよく笑ってストレス解消させていただきました。