部屋(へや)の片付(かたづ)けをしていたとき、一枚の写真(しゃしん)を見つけた。それは本棚(ほんだな)の中の、本の間(あいだ)にずっと挟(はさ)まっていたようだ。たまっていた本を処分(しょぶん)しようと思わなかったら…、手に取った本をパラパラとめくらなかったら…、いつまでも気づくことはなかっただろう。
その写真に写(うつ)っているのは、間違(まちが)いなく私。でも、私の隣(となり)に写っている男性は…、誰(だれ)なんだろう? 私はいくら考えても全く思い出せない。写真を見る限(かぎ)り、そんな昔(むかし)じゃない。この髪型(かみがた)は…。そうよ、四、五年くらい前。私、この髪型にしてたわ。
写真の中では、私はその人と二人で肩(かた)を組(く)んで、馬鹿笑(ばかわら)いをしている。男の人と肩を組むなんて、よっぽど親(した)しい関係(かんけい)よね。なのに、何で覚(おぼ)えてないんだろう。私はモヤモヤとした心持ちになり、部屋の片付けどころではなくなった。
私は、その頃(ころ)の友達(ともだち)に片っ端(かたっぱし)から電話(でんわ)をかけた。ここに写真があるってことは、友達の誰かが写真を撮(と)ったはずよ。きっと、誰か覚えているはず。
二時間後、私のささやかな期待(きたい)も崩(くず)れ去(さ)ってしまった。何でよ。こんな楽しそうにしてる写真なのに、何で誰も覚えてないの? そんなことあり得(え)ないでしょ。
私は写真を手に取ると、そこにいる誰だか分からない男性に向かって呟(つぶや)いた。
「あなたは誰なの? 私と肩を組むなんて、百万年早いわよ。さあ、答えなさい。どうして、私の記憶(きおく)に残(のこ)らなかったの?――もう、何とか言いなさいよ!」
<つぶやき>記憶が消(け)されたのかも。そこには、とんでもない陰謀(いんぼう)が隠(かく)されていたりして。
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