「だから、何であたしにつきまとうのよ。もう、いい加減(かげん)にして」
加奈子(かなこ)は誰(だれ)もいないはずの隣(となり)の席(せき)へ向かって呟(つぶや)いた。
「わしの第三の人生(じんせい)は、人助(ひとだす)けをすることに決(き)めたんじゃ。あんた、ほんとは困(こま)ってるんだろ?」
加奈子は首(くび)を振り、「いい。やめてよ。もう、あたしの前から消(き)えて」
「そう言われてもなぁ。わしは浮遊霊(ふゆうれい)だから、どこへでもついて行けるんじゃ」
その時、男が店に入って来た。男は加奈子を見つけると、彼女の前の席に滑(すべ)り込んだ。
「わるいな、無理(むり)言って」男は加奈子の手を取ると、にっこり微笑(ほほえ)んだ。
霊(れい)のおじいちゃんは、男が伸(の)ばした手をつかむ。男は身震(みぶる)いして手を引っ込めた。
「こいつはダメじゃ。あんたを幸せにすることはないぞ。苦労(くろう)するだけじゃ」
何も知らない男は、「加奈(かな)だったら、絶対(ぜったい)助けてくれるって思ってたんだ」
「おいおい。こいつに貢(みつ)いでも何も返ってこないぞ。あんたが損(そん)をするだけじゃ」
男と霊の言葉(ことば)が彼女の回りを渦巻(うずま)いていく。加奈子は両手(りょうて)で耳(みみ)をふさいだ。
「どうしたんだよ? 金、持って来なかったのか?」男は心配(しんぱい)する素振(そぶ)りもない。
「もう…、もう、いい加減にして! あたしの前から消えなさい」加奈子は思わず立ち上がると男に向かって叫(さけ)んだ。「あんたもよ! どうせ他の女に使う金でしょ。あたしが知らないとでも思ってるの。もう、うんざりよ! 二度とあたしの前に現れないで!」
<つぶやき>もし第三の人生があるとしたら…。あなたはどういう人生を過(す)ごしますか?
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