みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0349「涙のわけ」

2018-10-15 18:49:43 | ブログ短編

 女性の涙(なみだ)は美しい。誰(だれ)かがそんなことを言っていた。しかし、その裏(うら)にはおぞましい策略(さくりゃく)が隠(かく)されている場合(ばあい)もあるかもしれません。
「あれ、桜井(さくらい)さん? どうしたの、こんな時間まで」
 営業(えいぎょう)から戻った藤本(ふじもと)が驚(おどろ)いたように言った。もう終業(しゅうぎょう)の時間はとっくに過(す)ぎている。
「あの…。藤本さんこそ、どうしたんですか?」香里(かおり)は弱々(よわよわ)しい声を出す。
「僕(ぼく)は、ちょっとトラブっちゃってね。それで…。桜井さんは?」
「あたしは…。明日の会議(かいぎ)の資料(しりょう)を――。もう、あたしって、仕事(しごと)が遅(おそ)いから…」
「そうなんだ。だったら、誰かに手伝(てつだ)ってもらえばよかったのに」
「そんなこと頼(たの)めません。みなさん、お忙(いそが)しいのに…」
 香里は顔を伏(ふ)せる。頬(ほお)にひとすじの涙。「ごめんなさい。あたし、どうしちゃったんだろ」
「あっ…、大丈夫(だいじょうぶ)だよ。僕、手伝うから。どうせ、家に帰って寝(ね)るだけだし」
 ここで彼女をひとり残(のこ)して帰ったら、男としてどうなんだ? と、藤本は思ったのかもしれない。香里はホッとしたように微笑(ほほえ)むと、「ありがとうございます」と頭を下げる。
「いや、いいんだよ。気にしないで」藤本も何となくウキウキとした気分(きぶん)。
 そこで香里が言った。「あの、この後、お礼(れい)に、お食事(しょくじ)でも…。ダメですか?」
<つぶやき>恋愛(れんあい)とは、だまし合いなのかも。相手(あいて)の心をギュッと鷲(わし)づかみにするために。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする