「お前は天才(てんさい)だなぁ。すごいじゃないか」父親(ちちおや)は息子(むすこ)の頭をなでながら言った。
「ありがとう、パパ」息子は得意気(とくいげ)な顔で満面(まんめん)の笑(え)みを浮(う)かべた。
しかし、翌日(よくじつ)から息子は勉強(べんきょう)をさぼるようになった。宿題(しゅくだい)も手をつけようともしない。
息子が言うには、「だって、僕は天才だから、勉強なんてバカらしくて…」
父親はどうしたものかとヘラヘラと笑うばかり。でも、母親(ははおや)はそれを良(よ)しとはしなかった。息子の首根(くびね)っこをつかむと、「あんたは天才でもなんでもないの。何の努力(どりょく)もしないで、何ができるっていうのよ。そんなことしてると、パパみたいになっちゃうからね」
母親のキツいひと言で、息子は自分の部屋へ引っ込んだ。父親は疑問(ぎもん)に思って訊(き)いた。
「ママ、今のって…、どういうことかな?」
「はぁ? そのまんまの意味(いみ)よ。あなた、勉強を見てくれるのはいいのよ。でも、天才とか、そういう余計(よけい)なことは言わないで。あの子、あなたと同じでお調子(ちょうし)もんなんだから」
「でも、あれは、あの子のやる気を引き出すために…」
「やる気ねぇ。あなたも、もっとやる気を出して出世(しゅっせ)とかしてよ。お願いだから」
「いや、それは…。あの、今はあの子の勉強の話を…」
「あなた、あの子の成績(せいせき)とか知ってるの? 仕事仕事って、今までそういうこと聞こうともしなかったくせに。あたしが、今までどれだけがんばって――」
<つぶやき>会社(かいしゃ)でも家庭(かてい)でも、人を育(そだ)てるのは大変(たいへん)です。長所(ちょうしょ)を伸(の)ばしてあげようね。
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