教授(きょうじゅ)は助手(じょしゅ)の未来(みく)の肩(かた)に手をやり言った。「どうだね。彼の行動(こうどう)は?」
未来は教授の手をどけさせようと肩を動かして、「何か、どっかのお店(みせ)に入ったようです」
「お店?」教授はモニターを見つめた。そこは、どこかで見覚(みおぼ)えのある…。
モニターにドレスを着た若い女性が現れた。彼女は彼を抱(だ)きあげたらしく、お店全体(ぜんたい)がモニターに映(うつ)し出された。それを見た未来は、「いやだ。ここってキャバクラじゃ…」
「何でだ。猫(ねこ)の分際(ぶんざい)で、スミレちゃんに抱(だ)っこされるなんて――」
「教授…? まさか、このキャバクラ知ってるんですか?」
「何を言ってるんだ。私が知るわけないだろ。私は毎晩(まいばん)フィールドワークで忙(いそが)しいんだ。そりゃ、たまたま、キャバクラの前は通ることはあるかもしれんが――」
小さなスピーカーからキャバ嬢(じよう)の楽しげな声が飛び込んでくる。
「ねえ、スミレちゃん。あの変なおじさん、今日も来るかな?」
「う~ん、分かんない。でもね、あの人、どっかの大学(だいがく)の先生(せんせい)みたいだよ。何でも、都会(とかい)で暮(く)らしてる猫(ねこ)のことを調(しら)べてるんだって。あたしには難(むずか)しくって」
「それにしちゃ、毎晩のように来てない? 何を調べてるんだか――」
教授はスピーカーのスイッチを切ると真顔(まがお)で言った。「もう、いいだろ。今夜はこの辺(へん)で切り上げよう。私は、ちょっとカメラを回収(かいしゅう)してくるから。君は、もう帰ってもいいよ」
未来は呆(あき)れた顔をして言った。「教授、今夜も行くんですね」
<つぶやき>都会で暮らす猫は世渡(よわた)り上手(じょうず)なんです。どこにでも入り込み、その愛嬌(あいきょう)で…。
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