「ごめんね。そんなことまで…」布団(ふとん)の中で彼は弱々(よわよわ)しく言った。
「大丈夫(だいじょうぶ)よ。そんなこと言わないで」彼女はにっこり微笑(ほほえ)むと、「これでも、料理(りょうり)は好きなのよ。元気(げんき)になるように、美味(おい)しいもの作るから待ってて」
彼女はそう言うと台所(だいどころ)へ立った。だが、一つ問題(もんだい)が…。信じられないことかもしれないが、彼女は今まで一度も料理をしたことがなかった。まず、彼女は料理本をバッグから取り出した。一応(いちおう)、何を作るかは決めていたようだ。
どのくらいたったろう。彼が目を覚(さ)ますと、扉(とびら)の向こうからガシャンと大きな音がした。そして、彼女の小さな悲鳴(ひめい)…。彼は心配(しんぱい)になり、布団の中から声をかけた。だが、彼の声が届(とど)かなかったのか、彼女からの返事(へんじ)はなかった。
彼は布団から起(お)き上がった。何だか、焦(こ)げ臭(くさ)い匂(にお)いが…。ますます彼は不安(ふあん)になり、布団から這(は)い出して扉(とびら)の前まで…。その時だ。扉がスーッと開いて、彼女が入ってきた。
「あっ、起きたの? だめよ、まだ寝(ね)てなきゃ」
「でも、何か…、大丈夫かなって。ほら、君(きみ)んちの台所と違(ちが)って――」
「そんな心配しないで。何か、恥(は)ずかしいけど、お粥(かゆ)を作ったの。食べてみて」
台所を覗(のぞ)くと、流(なが)しには焦(こ)げた鍋(なべ)などが放(ほ)り込まれ、その中にレトルトパックが――。
<つぶやき>この後、彼女は料理教室で猛特訓(もうとつくん)を始めた。好きな人のために、がんばれ!
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