今日は彼とデートの日。明け方近くまでかかって、たまっていた仕事(しごと)も片(かた)づけた。今日一日、仕事のことなんか忘(わす)れて彼と目一杯(めいっぱい)楽しもう。私は、ウキウキしながら家を出た。
待(ま)ち合わせの場所(ばしょ)で彼を見つけて、私は手を振(ふ)りながら彼に駆(か)け寄る。彼は、私を見るなりつぶやいた。「今日は可愛(かわい)くないよな。お前の顔、何か変(へん)だぞ」
私は言葉(ことば)を無(な)くした。確(たし)かに、寝不足(ねぶそく)で目の辺(あた)りがちょっと腫(は)れてるかもしれない。それに、お化粧(けしょう)ののりも…。でも、それは今日のために仕事がんばったからで…。そんな言い方しなくてもいいじゃない。好きな人にそんなこと言われたら、私どうすればいいの?
「ごめんなさい。遅(おそ)くまで仕事してたから…。でもね――」
彼は私の方を見ようともしないで、「ほら、行くぞ。お前さぁ、のろいんだよ」
私は、彼のひと言で完全(かんぜん)にヘコんでしまった。こんなんじゃ楽しめないじゃない。せっかくのデートなのに。私はため息(いき)をつく。彼は、そんな私のことなんかお構(かま)いなしに、一人でどんどん歩いて行く。私は追(お)いかけながら、「ちょっと、そんなに急(いそ)がなくても――」
彼は私の腕(うで)をつかむと、「急がないと売り切れるんだよ。限定(げんてい)モデルなんだ」
「はぁ? なにそれ? 今日は、私とデートじゃ…」
「デートなんかいつでもできるだろ。限定モデルは今日じゃないと手に入らないんだ」
それって、どういうことよ。私のことは、どうでもいいってこと?
<つぶやき>乙女心(おとめごころ)は、ちょっとしたことで傷(きず)ついてしまうのです。分かってください。
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