昔(むかし)のサークル仲間(なかま)が集まって飲み会が開かれた。僕(ぼく)は遅(おく)れて行ったのだが、十年ぶりぐらいの再会(さいかい)で、なつかしい顔が並(なら)んでいた。僕はその中の一人にくぎ付けになった。
まさか、彼女が来ているなんて思ってもいなかった。――僕がずっと好きだった人。昔とまったく変わらないその微笑(ほほえ)みに、僕の心はざわついた。今さらどうしちゃったのか…。彼女のことは、もうとっくに忘(わす)れていたはずなのに。
彼女が僕の方に近づいて来る。僕の心臓(しんぞう)は高鳴(たかな)った。彼女は屈託(くったく)のない笑顔で僕に話しかけてきた。何でそんなふうにできるのか。そりゃ、確(たし)かに彼女とはそういうあれじゃなかったけど…。デートらしいデートもしてないし。僕が勝手(かって)に恋心(こいごころ)をふくらませていただけかもしれないけど。でも、彼女だって気づいていたはずだ。僕が好きだったってこと。
僕たちは昔話に花を咲(さ)かせた。僕にとってはちょっと切ない思い出…。笑っている彼女を見ていると、今、幸せなんだってことが分かる。彼女の薬指(くすりゆび)には指輪(ゆびわ)も輝(かがや)いているし。
僕は葛藤(かっとう)していた。今すぐこの場から逃げ出したい気持ちと、彼女のとこをずっと見つめていたい気持ち。――何で僕は来てしまったんだろう。会わなければよかった。そしたら、こんな思いをすることもなかったのに。今さらそんなことを言っても仕方(しかた)がない。そんなこと分かってる。僕の心に広がった波紋(はもん)は、いつまでもどこまでも広がっていく。
僕は、自分の指輪をさわりながら妻(つま)の顔を思い浮(う)かべた。――僕は、昔の僕じゃない。僕には大切(たいせつ)な人がいる。そして、僕は今、とっても幸せなんだ。
<つぶやき>昔の恋はいつまでも心に残(のこ)っているものです。大切にしまっておきましょう。
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