みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0360「父親の心配事」

2018-10-26 18:15:37 | ブログ短編

 和則(かずのり)は妻(つま)から妊娠(にんしん)を告(つ)げられたとき、飛び上がらんばかりに喜(よろこ)んだ。いよいよ出産(しゅっさん)という時も、妻よりもハラハラドキドキして仕事(しごと)も手につかない状態(じょうたい)だった。
「あなたが産(う)むわけじゃないのよ。心配(しんぱい)しないで」と妻の方が冷静(れいせい)だった。
 産まれたのは女の子。和則は赤ちゃんの顔を見るなり、子供(こども)のように泣(な)き出した。
 この日から、和則の父親としての心配事(しんぱいごと)が始まった。和則は妻に宣言(せんげん)した。
「この子は、箱入(はこい)り娘(むすめ)として大切(たいせつ)に育(そだ)てるぞ。そのつもりでいてくれ」
「あなた、この子はまだ赤ちゃんですよ。今からそんなこと…」妻は呆(あき)れるばかりだ。
「もし、変な男が近寄(ちかよ)って来たらどうするんだ。僕(ぼく)たちが守(まも)ってやらないと」
 妻は少しからかうように、「そうね。あなたも学生だった私のこと…」
「僕は、真面目(まじめ)だけがとりえの男だ。変な男じゃないぞ」
 和則はふと考えた。「そうか、そうだよな。学校へ行くようになれば、男との接触(せっしょく)も増(ふ)えてしまう。そうなると…。これは、まずいぞ。今のうちにちゃんとした学校を――」
「もう、今からそんな心配してどうするの? 大丈夫(だいじょうぶ)よ。私たちの子供なんだから」
「あのな、そんなことどうして言えるんだ。この子には絶対(ぜったい)幸(しあわ)せになってもらわないと。そのためにも、ちゃんとした男と結婚(けっこん)をさせて…」
<つぶやき>父親の心配は際限(さいげん)なく膨(ふく)らむもの。そこには妻とは別の、娘への愛がある。
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