男は、突然(とつぜん)目の前に現れた女に向かって言った。
「なに言ってんだよ。女神(めがみ)って顔じゃないだろ。冗談(じょうだん)もほどほどにしてくんない」
「そう、別にいいのよ。あたしも、こんなことやりたくないし。ずっと独(ひと)りでいなさい」
女は不機嫌(ふきげん)な顔をして、「恋(こい)の女神を怒(おこ)らせるなんて、どうなっても知らないから」
「残念(ざんねん)でした。俺、彼女いるから。欺(だま)すんなら他の男にしなよ」
「じゃ、確(たし)かめてみる?」女が一点を指(ゆび)さすと、そこに若い女性が現れた。
男は驚(おどろ)いた。それは付き合っている彼女だったのだ。男は彼女に駆(か)け寄り、
「どうしたの? こんなとこで会うなんて。ねえ、これから食事(しょくじ)でもしない?」
彼女は眉間(みけん)にシワを寄せて、「冗談(じょうだん)言わないで。何であなたと」
「どうしちゃったの? なに怒ってんだよ。昨夜(ゆうべ)だって二人で――」
「ばっかじゃないの。何で私が、好きでもない男と食事しなきゃいけないのよ」
彼女は男をにらみつけて行ってしまった。女はけらけらと笑(わら)った。
「残念ね。これで分かったでしょ。あたしが恋の女神だってこと」
男は吐(は)き捨(す)てるように、「嘘(うそ)だ! お前みたいな不細工(ぶさいく)な女神がいるもんか」
「あ~ぁ、これだからヤなのよ。すべての女神が美人(びじん)だって、誰(だれ)が決めたのよ!」
<つぶやき>イメージだけが一人歩きして、ホントのことが見えなくなっていませんか。
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