「政府寄り」「間違った歴史認識」
込んだのは視聴者かNHKの籾井(もみい)勝人会長の罷免・辞任を求める市民の声が急速に広がり、運動が活発になっています。
「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」や関西の市民の会など7団体は、籾井勝人NHK会長と、百田尚樹、長谷川三千子両経営委員の罷免を求める署名用紙を作成し、活用を呼びかけました。
署名の訴えでは、日本軍「慰安婦」問題など事実に基づかないばかりか過去の戦争への反省もないと籾井会長の発言を批判。「公共的な放送機関のトップにはまったくふさわしくありません」として、任免権を持つNHK経営委員会に籾井会長を罷免するよう求めています。
また、かつての日本の侵略を否定する一連の発言を続けている百田氏と、右翼テロを礼賛する長谷川氏については、放送法に照らして委員失格であると指摘。任命者である安倍首相に対し、両氏の罷免を要求しています。
新日本婦人の会(笠井貴美代会長)は、各県のNHKを訪問して懇談、会長の辞任を申し入れています。
また、大阪の阪口徳雄弁護士や上脇博之・神戸学院大大学院教授らで構成する「NHKのあり方を考える弁護士・研究者の会」は3日、籾井会長宛てに辞任を求める申し入れ書を送付しました。
NHKに視聴者から寄せられた会長問題にかかわる意見は2万2400件(2月25日集計)。広報によると62%が批判的で、「公共放送のトップにふさわしくない」「考え方が政府寄り」「間違った歴史認識だ」「偏った放送にならないかと心配」というのが主なものです。
職員からも辞任求める声
― 「資質疑う」「視聴者のみなさんと同じ思い」
NHKの籾井勝人会長の辞任を求める市民の声が沸騰する中、NHK職員の間から「私たちも視聴者のみなさんと同じ思い」と呼応する意見が出ています。
ニュースで削除
籾井会長が就任したのは1月25日。午前11時から職員に対して会長就任の弁が披露されました。土曜日でしたが、職員は回線を通じて全国どこの放送局でも視聴できるようになっていました。
職員によると「放送法にもとづいてやっていくこと、ボルトとナットを締め直すこと」が強調されていたそうです。
問題の発言が出たのは午後の記者会見でした。国際放送では「政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない」、日本軍「慰安婦」については「どこの国にもあったこと」、「秘密法は政府が必要と説明しているので、様子を見るしかない」。
NHKのニュースはこの部分を削除して記者会見の模様を伝えました。職員たちの多くが会長発言の中身を知ったのは、新聞や民放テレビのニュースでした。
「会長としての資質を疑う」「籾井会長を守ろうという気持ちにはなれない」。そんな思いが職員の間で広がっていきます。
籾井氏は三井物産副社長、情報通信技術を扱う日本ユニシス社長などを経てNHK会長に。同郷の麻生太郎副総理が推したとされています。昨年末、経営委員に安倍晋三首相寄りの4人が新たに選ばれたのに続いての人事でした。
NHK幹部職員は語ります。「安倍政権に連れてこられた人物が、公共放送が何たるかも知らず、放送の公平や自律についても根本的に認識がないことをさらけ出した」
2月21日、10人の理事全員に辞表を書かせたことが明らかになりました。職員の中には「では、私たちも全員書こうか」という皮肉まで飛び出しました。
信頼つなぎたい
「ニュース7」「ニュースウオッチ9」は、政権寄りの傾向が強いと視聴者から大きな批判が続きます。
一方で、「ETV特集」「NHKスペシャル」などには支持される番組もあります。連続テレビ小説「ごちそうさん」は戦時中、官憲にささやかに抵抗するNHK職員の姿も描かれ、注目されました。番組の制作現場では、「公共放送として信頼される番組をつくることで信頼をつなぎとめよう」という思いが強まっているといいます。
会長を罷免できる権限を持つのは経営委員会だけです。
NHK関係者は「政権は辞めさせる対応はしない。そのときに効いてくるのが市民の力。職員が市民と結んで、辞めさせることができないか」
かつて、制作費流用の不正で、2005年に海老沢勝二会長(当時)を辞任に追い込んだのは視聴者からの辞任要求でした。