きょう11月3日は、憲法公布71年の記念日です。安倍政権は、解散・総選挙の結果、改憲勢力で3分の2超の議席を確保し、9条改憲発議へ向け動きを強める構えです。憲法状況をどう見るかについて一橋大学名誉教授の渡辺治さん(憲法学)に聞きました。(秋山豊、中祖寅一)
7月の東京都議選で自民党が大惨敗し、内閣支持率が急落する中、来年の通常国会で9条改憲発議を実現するという安倍晋三首相の思惑は頓挫したかにみえました。しかし、あくまで改憲に執念を燃やす安倍首相は、9月の民進党代表選で、市民と野党の共闘「見直し」を公然と掲げた前原誠司氏が代表に就任したのを機に、共闘の亀裂につけこみ、解散に打って出ました。
解散の衝撃で共闘を分断に追い込み、あわよくば自公3分の2、たとえ自公でとれなくても改憲勢力3分の2の確保を狙って奇襲解散に出たのです。
安倍首相の狙いは半分成功半分失敗
解散・総選挙に込めた安倍首相の狙いは、半分成功したが、半分は失敗したと私は思います。
一方で、解散を前に希望の党が立ち上げられ、民進党が合流を決定したことで民進党は共闘から離脱。市民と野党の共闘の分断に一度は成功しました。自民党は、結党以来初めて、いままで国民の反発を恐れてやれなかった9条改憲を選挙の重点公約に掲げ圧勝したのです。容易ならぬ事態になったことを直視しなければなりません。
他方、日本共産党が共闘再構築を呼びかけるなか、立憲民主党が憲法改悪反対の旗をかかげ解散前後に結党され、躍進した。これをもたらしたのは、やはり安倍首相が恐れた市民と野党の共闘の力でした。特に北海道や新潟などで顕著ですが、共産党を含む各地域での市民と野党の共闘の蓄積と働きかけが、安倍首相の狙いの実現を阻んだのです。
立憲民主党の結党そのものが、共闘の産物でした。3年におよぶ市民と野党の共闘の経験、とりわけ16年参院選の共闘の実績がなければ、希望の党による排除に直面した人々が立憲民主党を結党する決断はできなかったでしょう。
立憲民主党躍進は三つの共闘の成果
さらに、立憲民主党の躍進は、立憲主義と改憲反対の旗を掲げた立憲民主候補の奮闘に加え、共闘維持のための市民連合の努力、日本共産党の奮闘、共闘を守るための市民の決起、この三つの共闘の成果以外の何ものでもありません。今回の総選挙の中でも共闘の力は壊れなかったのです。
改憲反対を掲げた立憲民主党の躍進、対照的な希望の党の失速。その結果、自民党は「大勝」したけれども、選挙で改憲の合意をとれたと強調できなくなっていることは、非常に重要なポイントだと思います。
改憲をめぐるたたかいの決着は、今後の改憲発議を許すかいなかの攻防にもちこされました。衆院の憲法審査会ではたしかに改憲派の議席が増大し、改憲派が多くを占めることになります。
一方で、民進党のなかから改憲派が別れて出たため、日本共産党、立憲民主党、社民党の「立憲3党」の改憲に対する姿勢は非常に鮮明になった。さらに、希望の党の失速で参院の側で民進党を壊すことができず、参院憲法審査会では衆院以上に改憲反対派が依然として健在です。また公明党が、9条改憲に対する消極姿勢を崩していない。
地域の草の根から3000万署名の達成を
この中で、9月に、九条の会も参加して発足した「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」による、かつてない市民の共同の役割はいっそう大きくなっています。
その第一の課題は、なんといっても3000万署名です。総選挙での「立憲3党」の得票合計が1643万であることを考えると、3000万は本当に大きなものですが、十分可能な目標です。
朝日新聞の総選挙における出口調査をみると、9条に自衛隊を明記する改憲をめぐって、世論は賛成46%、反対46%と拮抗(きっこう)しています。しかし、その内訳が公表されている地域をみると、共産、立民の支持者のみならず、希望の党の支持者の6割以上、公明党の約3割、自民党支持者でも十数%が9条改憲に反対しています。
市民と野党の共闘の土台となった地域の共同が草の根から、「9条への自衛隊明記」の危険を訴えていけば、改憲発議をはばむ3000万署名の達成は十分可能です。