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対ロ、対米、対中―“安倍外交”を根本から問う

2016-12-19 | 諸外国との外交

 日本共産党の志位和夫委員長は、18日放送のNHK日曜討論で、日ロ首脳会談(15、16両日)をはじめ安倍政権の外交をめぐって各党の代表と議論を交わしました。


日ロ首脳会談

大変だらしのない外交――ロシアが「領土問題は存在しない」と言うもとで、領土問題を脇に置けば一歩も前進しない

 司会の島田敏男氏は日ロ首脳会談が「経済分野での関係強化が先行」し、「懸案の北方領土問題の解決と日ロ平和条約の締結に向けて“急がば回れ”の道を選んだ格好」と指摘。自民党の高村正彦副総裁が「『新しいアプローチ』に一歩踏み出した」と強調したのに対し、志位氏は次のように指摘しました。

 志位 私は、一言で言って、大変だらしのない外交だったと思います。肝心の(日ロ)領土問題ではまったく進展がなかった。

 プーチン大統領は、首脳会談に先立って、「第2次世界大戦の結果は、しかるべき国際的な文書によって確定している」と述べました。ここでいう「しかるべき国際的な文書」とは、(旧)ソ連への「千島列島の引き渡し」を取り決めた米英ソ3国による1945年のヤルタ協定です。ヤルタ協定を前面に押し立てて、千島列島、歯舞(はぼまい)、色丹(しこたん)の不法な占領を正当化した。そして、「領土問題は存在しない」と言い放ったわけです。

 それに対して安倍首相がとった態度は、「新しいアプローチ」の名で、領土問題を脇に置く。そして、まずは経済協力だと。そうすれば、いずれは領土問題の解決に道が開けますというようなものでした。

 しかし、相手が「領土問題は存在しない」と言っているもとで、領土問題を脇に置いてどうなりますか。これは一歩も前進しません。こういう外交姿勢はあらためるべきだということを強く言いたいと思います。

「共同経済活動」
ロシアの4島への実効支配を後押しし、領土問題の解決を遠のかせる危険
クリミア併合問題での対ロ経済制裁に抜け穴をつくることにも

 さらに志位氏は、司会の島田氏から、今回の日ロ首脳会談で、(北方)4島の「共同経済活動」の実現に向け、「日ロ双方の立場を害さない」特別の制度として交渉を開始することが合意されたことについて見解を問われ、次のように述べました。

 志位 私は、強い懸念をもっています。

 第一に、「(日ロ)双方の立場を害さない」と言いますが、ロシア側は「ロシアの主権のもとで行う」と繰り返し言っているわけです。ですから、私は、「共同経済活動」の具体化のプロセスの中で、日本の4島に対する主権が損なわれることを強く危惧します。

 首相は、「共同経済活動」は(日ロ)平和条約締結に向けた重要な第一歩になると言いましたが、その保障はないと思います。逆にロシアの4島に対する実効支配――統治を、政治的・経済的に後押しして、領土問題の解決を遠のかせる危険があると思います。

 第二に、ロシアによるクリミア併合に対して、G7(主要7カ国)あるいはEU(欧州連合)が経済制裁をやっているわけです。そのさなかに、日本がロシアと大規模な経済協力の取り決めをやるということは、この(対ロシアの)国際的な活動に対する、いわば抜け穴を大きくつくってしまうことになる。このことで日本の国際的な立場が問われるという問題もあると思います。

 志位氏の指摘に対し、高村氏は双方の立場を害さないことを担保するために「(日ロ)両方のスペシャリスト(専門家)が特別な制度をつくる」「これからの問題だ」と弁明。民進党の細野豪志代表代行は「志位委員長がおっしゃったような懸念もある。ロシアの主権、法律のもとでという大原則をロシアが譲らない限り、逆に北方領土がロシアの領土であるということを日本が認めることになりかねない」と指摘しました。

領土問題の解決
日本政府は、戦後、一度も、「正義」を主張したことがない
戦後処理の不公正の是正を中心に据え、全千島返還を堂々と求める交渉でこそ道は開ける

 野党側から「領土問題の進展が一切なかった」と批判された高村氏は、「お互いに理屈を言い合って、相手が『わかりました』ということはない」と開き直りました。公明党の山口那津男代表も「『共同経済活動』はまだ中身ははっきり分からないが、挑戦して実績をつくる。これが第一歩だ」と同調。これに対し志位氏は次のように批判しました。

 志位 さきほど高村さんは“(日ロ)両方が正義を主張しても進まない”とおっしゃいました。しかし、本当の意味での“正義”を、戦後、日本政府は、主張したことはないのです。

 日ロ領土問題の根本は、「領土不拡大」という第2次世界大戦の戦後処理の大原則に背いて、1945年のヤルタ協定で「千島列島の引き渡し」を勝手に決める。そして、1951年のサンフランシスコ(平和)条約で、それ(ヤルタ協定)に拘束されて、日本政府が「千島列島の放棄」を宣言してしまう。ここにあるわけです

 ですから、この戦後処理の不公正を是正する、これが領土問題の解決の中心に据えられなくてはいけない。

 ところが戦後、日本政府は、70年余、ただの一度も、この戦後処理の不公正の是正を求めたことがないのですこれが(日ロ領土問題が)一歩も進まなかった原因であるということをはっきり言わなければなりません。

 この交渉態度をあらため、全千島列島の返還を堂々と求める交渉をやる。その過程のなかで初めて、国後(くなしり)、択捉(えとろふ)を取り戻す道も開けてくる。それから、歯舞、色丹については北海道の一部ですから、中間的な友好条約で速やかな返還を求める。ここに(交渉方針を)切り替える必要があると思います。

日ソ両党交渉では正面から問題提起し返還検討を約束させた
国際的に通用する論建てがなければ前に進まない

 志位氏の発言を受け、自民・高村氏とのやりとりになりました。

 高村 (自身が外相時代に)「領土不拡大」の原則があったじゃないかと、不公正だなんていうことは何回も言っています。言ったからといってそれが通るという話ではないんですよ。交渉というのは、相手が「そうだな」と言わない限りだめなんです。日本共産党が主張したら、のみましたか。のまないでしょ。

 志位 日本共産党は、いまの問題(戦後処理の不公正の是正)を、正面から提起したことがあるんです。日本共産党とソ連共産党との、党対党の交渉のなかで、この問題を提起したことがあります。そうしましたら、(ソ連共産党は)南千島(諸島)については、将来的ではあっても、返還の検討の約束をしました。

 ですから、論建てが必要なのです。領土交渉は、経済協力をやれば進むわけではありません。やはり、国際的に通用する、しっかりした論建てがなければ、これは前に進みません。

首相の真珠湾訪問

何を語るかが重要――過去の日本の戦争を「間違った戦争」と認めなかった首相の歴史観・戦争観が厳しく問われる

 つづいて、安倍政権の対米外交をめぐる議論となりました。公明・山口氏は「年末に(安倍首相は)ハワイでオバマ大統領と最後の日米首脳会談をやるのも、日本の政権が安定しているからだ」と持ち上げました。安倍首相の年末の真珠湾訪問について問われた志位氏は次のように発言しました。

 志位 私は、何を語るかが重要だと思っています。

 安倍首相は、「二度と戦争の惨禍を繰り返してはならない。その決意を示すために真珠湾を訪問する」と言いました。であるならば、過去の日本の戦争は、いったいどういう戦争だったのか、歴史観、戦争観が問われます。

 私は、昨年5月の(国会の)党首討論で、過去の日本の戦争を「間違った戦争」と認めますかと、繰り返したずねましたけれども、(首相は)最後まで(「間違った戦争」だと)お認めにならなかった。「ポツダム宣言」では、「世界征服」のための戦争だったと書いてあるじゃないかとただしても、最後まで認めなかった。そういう態度では世界に通用しないと思います。

 真珠湾攻撃というのは、中国侵略戦争の行き詰まりを、戦線をアジア・太平洋全域に広げることによって打開しようとした、文字通りの侵略戦争です。これは歴史の判定が下っているわけです。私は、この点で、真珠湾を訪問するんだったら、総理の歴史観、戦争観が厳しく試されるし、問われると思います

 これに対し、自民・高村氏は「日米の関係はもう謝れとか謝るなとかそういう関係じゃない」「日米同盟が日本、米国、国際社会にとっても素晴らしい同盟、“三方(さんぽう)よし”の同盟だと発信するために行くので十分だ」と開き直りました。

TPP協定と日米交渉

歯止めのない譲歩は許さないという新たなたたかいに取り組みたい
多国籍企業の利益優先でなく、各国の国民生活、経済主権を守る公正・平等なルールを

 トランプ次期米大統領が環太平洋連携協定(TPP)からの「離脱」表明をしていることについて自民・高村氏は「(日本が)離脱してくれるなという働きかけをしていく。ぜひTPPを発効させたい。日本は自由貿易を追求する、保護主義に反対するということを鮮明にしておくことは悪いことではない」と発言。民進・細野氏は「TPPだけにこだわるのでなく、違う選択肢を模索すべきではないか」と発言しました。これらをふまえて志位氏は次のように発言しました。

 志位 トランプ次期(米国)大統領がTPPからの「離脱」を表明しているもとで、TPPの発効は絶望的になっていると思います。ただ同時に、トランプ氏は、「2国間交渉を進める」と言っています。こういうもとでTPP(協定・関連法)の強行をやったわけですが、これはたいへん愚かで危険な道だと思います。

 農産物の関税撤廃の問題にせよ、食の安全、雇用、医療などの非関税障壁の撤廃にせよ、TPP協定で日本が譲歩した線が事実上の「国際公約」になる。そしてこの譲歩した線が「スタートライン」になって、アメリカとの2国間交渉が行われて、さらなる譲歩が迫られる。こういう危険があると思います。私たちは、歯止めのない譲歩は許さないという新たなたたかいに取り組みたい。

 さきほど(高村氏は)「保護主義」ということを言われましたが、問われているのは「自由貿易」か「保護主義」かではありません。多国籍企業の利益を最優先させるルールをつくるのか、それとも各国の国民生活、各国の経済主権をきちんと守る公正・平等な貿易と投資のルールをつくるのか。これが問われていることを強調したいと思います。

 公明・山口氏は「今後どういう貿易ルールをつくるにしても、これ(TPP)は非常に大きな参考、教訓になる」としがみつく姿勢を示し、維新・片山虎之助共同代表も「できるだけアメリカの翻意を促す」とけしかけました。

オスプレイ墜落

占領者意識丸出しの沖縄米軍トップの暴言、事故捜査もできない日本――従属国家のあり方を根底から見直せ

 つづいて、トランプ次期政権の安保政策がテーマに。米軍普天間基地(沖縄県宜野湾市)に所属するMV22オスプレイが名護市の浅瀬に墜落した事故で、沖縄県の抗議に対して、沖縄の米軍トップのニコルソン四軍調整官が、住宅や県民に被害が出なかったことを「感謝されるべきだ」などと反論した問題などについて冒頭問われた志位氏は、怒りを込めて次のように発言しました。

 志位 オスプレイの墜落は、全国でも沖縄でも怒りを広げていますが、とくにひどい問題がいくつかあります。

 一つは、いま紹介されましたが、沖縄米軍トップのニコルソン四軍調整官が、「住宅や県民に被害を与えなかったことは感謝されるべきだ」といった。大惨事になりかねない事故を起こしておいて、「感謝せよ」という。これはもう占領者意識丸出しの暴言です。こういうものがまかり通っている。

 もう一つは、日本の捜査機関が「原因究明」のカヤの外に置かれてしまっている。海上保安本部が米軍に捜査の協力を申し出ました。しかし、まったく回答がない。米軍がフライトレコーダー(飛行記録装置)を持って行ってしまう。「公務中の事故」なら第1次裁判権は米側にあるとした日米地位協定の壁に阻まれて、日本側は捜査もできない。こういう問題が起こっています。

 こういうことが、本当に対等・平等の独立国家間の関係と言えるのか。この問題が問われています。こういう従属国家のあり方を根底から見直す必要があると思います。

 これに対し自民・高村氏は「地位協定のことを言いましたけれど、これはNATO(北大西洋条約機構)にいる米軍でも全く同じです。日本だけじゃない」と弁明。志位氏は「それは違います。たとえばイタリアでは捜査権を持っています」と反論しました。

トランプ米次期政権への対応

「日米同盟」絶対の思考停止では対応できない
アメリカ追随外交でいいのかを、根底から考える機会に

 司会の島田氏から「オスプレイの出来事は普天間基地移設にも影響するとみられているが」と問われた公明・山口氏は「移設問題はなるべく危険を避けるというのが普天間基地移設の原点。それを忘れずに丁寧に交渉を進め、実現を図るのが重要だ」と述べ、辺野古新基地建設に固執する姿勢を自民・高村氏とともにあらためて示しました。志位氏は対米追随外交をただしました。

 志位 トランプさんがいろんな発言をされるわけです。“在日米軍の駐留経費を全部出せ”という発言もされた。新政権が発足してどうなるかわかりませんけれど、私は、これまでと同じような、日米安保条約――「日米同盟」絶対の思考停止では対応できないと思うんです。

 (在日米軍の)駐留経費の問題でも、日本は出しすぎるぐらい出しているんです。「思いやり予算」もじゃんじゃん出している。こんなやり方でいいのかということをこの機会に根底から考える(必要がある)。

 それから、結局、「日米同盟」最優先でやっているために、たとえば、いま国連(総会第1委員会)で核兵器禁止条約の交渉開始のための決議が採択されて、来年には交渉が始まろうとしています。こういう大事な動きが起こっているのに、日本はアメリカの圧力に屈してこれに反対するわけです。唯一の戦争被爆国にあるまじき対応です。

 こういうアメリカ追随外交でいいのか。こういう問題を根底から考える機会にしていく必要があると思います。

中国にどう向き合うか

東シナ海、南シナ海での「力による現状変更」をめざす動きは許されない
「北東アジア平和協力構想」――地域の平和協力の枠組みを

 最後に、対中国外交が議論に。志位氏は、「中国とどう向き合うか」を問われ、次のように述べました。

 志位 私は、中国が東シナ海、南シナ海で行っている「力による現状変更」をめざす動きは決して許されるものではないと考えています。私たちは(来年)1月に党大会をやりますが、決議案のなかで(中国に対して)「新しい大国主義・覇権主義の誤りがあらわれている」というきびしい指摘を行いました。

 ただ、これにどう対応するかという点では、力対力、軍事対軍事の悪循環に陥ってはならない。外交的解決に徹する必要があります。

 日本共産党は、「北東アジア平和協力構想」というものを提唱してきました。ASEAN(東南アジア諸国連合)の国々は、東南アジア友好協力条約=TACを土台にして、あらゆる紛争問題を話し合いで解決する地域の平和協力の枠組みをつくっています。中国との関係も、南シナ海行動宣言(DOC)によって、紛争をエスカレートさせないメカニズムをつくっています。そういう、地域の平和協力の枠組みを、北東アジアでもつくろうじゃないかと(いう提案です)。(憲法)9条をもつ日本がそのイニシアチブをとるべきだと考えています。

 自民・高村氏は「東シナ海、南シナ海で、力で現状を変更する動きには毅然(きぜん)として対処するのは当然だ」と発言しました。


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