日豪の経済連携協定(EPA)が7日に「大筋合意」したのを受け全国5紙は8日付の社説で、そろいもそろって環太平洋連携協定(TPP)交渉推進のテコにするよう求めました。
「読売」は「焦点は、今回の合意が、難航している環太平洋経済連携協定(TPP)交渉にどんな影響を与えるかである。強硬姿勢を続ける米国との交渉を加速し、膠着(こうちゃく)状態を打破するきっかけにすべきだ」と書きました。「産経」も、「日米対立で膠着状態のTPP交渉も前進させてほしい」と主張しました。さらに「日経」も「膠着している環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の進展につながると期待できる」としました。
「朝日」は安倍晋三政権にたいし「今回の合意を突破口に、米国との交渉を急いでほしい」と要望。「毎日」は、「日米交渉の行き詰まりがTPP交渉の最大のネックになっている。それを打開するため、今回の結果をしたたかに利用する交渉戦術を期待したい」と安倍政権への「期待」を示しました。
各紙の社説は、表現こそ多少異なってはいるものの、日豪EPAをテコにTPP交渉の早期妥結を提起している論立ては、判で押したように同じです。まるで一人の論説委員が書いたのでは、と勘ぐりたくなる内容です。
2国間合意で
各紙の社説は、日豪EPAが一定の関税率を残したため、この合意が、TPPに有利に働くかのように主張しています。果たして、このような論理が成り立つのでしょうか。
そもそも日豪EPAは2国間の通商協定にすぎず、2国間の合意だけで決まるものです。一方、TPP交渉は12カ国が参加し各国の利害が複雑に絡み合う多国間交渉です。しかも、TPPは、関税ゼロが原則です。オバマ米政権は、この原則を下ろそうとはしていません。全米牛肉生産者・牛肉協会(NCBA)は、日豪EPAについてTPPの原則を「掘り崩すもの」と批判の声明を出し、オバマ政権に圧力をかけています。
迫られる譲歩
日豪EPA交渉開始にあたり2006年12月に採択された国会決議は、牛肉などの重要品目を「除外」か「再協議」の対象にすることを政府に求めています。にもかかわらず、安倍政権は、豪州産牛肉の関税を現在の38・5%から段階的に20%前後に引き下げることで合意しました。日豪EPAは、日本農業に大きな打撃を与えます。しかし結局、日豪EPAは日本が譲歩することで合意に至ったものです。TPP交渉においても、日本が全面的な譲歩を迫られるのは、日豪EPA交渉の経過からも明らかです。
国会決議を踏みにじった合意を、日本を丸ごとアメリカに売り渡すTPP交渉推進のテコにしようという大手紙の主張は、まさに「亡国の主張」といわれても仕方ないものです。