「民はよ(由)らしむべし、知らしむべからず」ということばがあります。もともとは『論語』の、民は為政者の施策に従わせることはできるがその道理を理解させるのは難しいという意味だといいますが、いまは為政者は民を従わせればいいので道理をわからせる必要はないという意味で使われます。
衆院で審議が始まっている秘密保護法案はさしずめ、そのことばどおりの法案というべきでしょう。外交、防衛などの情報を安全保障に関わる「特定秘密」だと指定することによって、国民の目、耳、口をふさいで、「戦争する国」への道を突き進むものだからです。
秘密がどこまでも広がる
先週から衆院特別委員会で始まった審議で浮き彫りになったのは、秘密保護法で国民から隠そうという「特定秘密」が広範で、政府の判断でどこまで広がるかわからないという危険性です。
秘密保護法案は、「安全保障に著しい支障を与えるおそれがある」という理由で、「行政機関の長」が、防衛、外交、「特定有害活動」、テロリズムの防止の4分野から「特定秘密」を指定することになっています。「特定有害活動」とはスパイのことで、かつてのスパイ防止法案の復活です。法案の「別表」には防衛なら10項目、外交なら5項目などの「特定秘密」の対象が例示されていますが、いずれも「武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物」などと「その他」の表現が多用されており、政府の勝手な判断で「特定秘密」の範囲が広げられる仕組みです。
衆院本会議や特別委員会の答弁で政府は、「従来の秘密の範囲を拡大するものではない」と繰り返しました。しかしもともと日本には「安全保障」を理由に秘密を保護する法律はありません。新しく法律を作り、そのうえ政府の都合でどれだけでも拡大できる仕掛けを組み込んで拡大しないといってもそれを信じることはできません。
国会審議で同法案を担当している森雅子担当相は、国民の「知る権利」や報道機関の活動が保障されるかのように答弁しています。しかし、「特定秘密」と指定されれば、国民の「知る権利」の対象からも、取材・報道の対象からも外されます。国民が知ろうとしたり、報道機関が取材・報道しようとしたりすれば、待ち構えているのは重罪です。国民に情報を知らせず、「よらしめる」ためだけの法案であるのは明らかです。
秘密保護法案が、公務員や政府の仕事を請け負う企業の従業員に対し「適性評価」の名目でおこなう調査がプライバシーを侵害する危険を持つことも、陸上自衛隊や海上自衛隊がすでに実施している「身上調査」を突きつけての日本共産党の赤嶺政賢議員の追及で明らかになりました。国民の目や耳を封じ、重大な人権侵害を押し付ける法案は許されません。
「修正」の余地などない
安倍政権が、秘密保護法案や日本版NSC設置法案を強行して目指すのは、アメリカと軍事情報をやりとりし、海外で「戦争する国」になることです。秘密保護法は国民主権や基本的人権はもちろん、憲法の平和主義も破壊します。
自民党などは野党の「修正」要求には耳を傾けると言いだしていますが、憲法の基本原則に反する法律に「修正」の余地はなく、撤回か廃案以外、道はありません。