クックCEO、ジョブズの影から踏み出す
―アップルのビーツ買収
By DAISUKE WAKABAYASHI
2014 年 5 月 11 日 11:50 JST
写真:アップルのクックCEO Getty Images
ジョブズならどうしただろうと考えるな、
自分が正しいと思うことをしてほしい――。
米アップルの創業者スティーブ・ジョブズ氏は
ティム・クック最高経営責任者(CEO)に
こう言い残したという。
それから3年が経ち、クック氏は
自らの進む道を描き始めている。
アップルは近く、音楽配信サービスを始めたばかりの
ヘッドフォンメーカー、
ビーツ・エレクトロニクスを買収する見通し。
買収額はアップル史上最高の32億ドル(約3,250億円)。
アップルはこれまで、これほど高額な買収を行ったことはなく、
有名ブランドを買収したこともない。
クック氏は初めて改革に踏み出したと言える。
調査会社フォレスターのアナリスト、ジェームズ・マクベイ氏は
ビーツ買収について「スティーブ・ジョブズだったら
署名していたかどうかわからない」と話した。
ビーツ以外にも、クックCEOはスマートフォン
「iPhone(アイフォーン)」やタブレット型端末
「iPad(アイパッド)」のような新しいタイプの製品や
収益性の高い新サービスへの参入を
目指すことを明らかにしている。
アップルは岐路を迎えている。
スマートフォン市場自体の成長が鈍化する中、
同社の主力製品であり主な収益源でもある
iPhoneはアンドロイド端末にシェアを奪われつつある。
iPadの収益は直近の4四半期中、3四半期で減少した。
成長力の回復を目指すアップルは
ウエアラブル技術への取り組みの一環として、
腕時計型端末など多様な製品の開発を進めている。
また、従来型のケーブルテレビ用セットトップボックスに代わる
製品としてアップルTVの抜本的な見直しも行っている。
アップルの製品開発には
年単位の時間がかかることが多いが、
こうした製品が完成すれば、
クック氏の就任後、初めて
主要製品が発表されることになる。
クック氏はサービス事業の強化にも意欲的で、
ビーツ買収はその方針に合致している。
iTunesのクレジットカード情報や
最新のiPhoneに搭載されている指紋認証機能を活用した
モバイル決済にも関心を示している。
アップルは同社の端末を使ったモノや
サービスの決済事業の開始に向けて準備を始めたところで、
長年幹部を務める人物を責任者に抜擢した。
アップルは昨年、広告を挿入して
無料で音楽を配信するストリーミングサービス
「iTunes Radio(アイチューンズ・ラジオ)」を開始。
ビーツを買収すれば、アップルは
成長率の高い定額制音楽配信サービスに参入できる。
定額制の配信サービスは利用者が月額料金を支払えば、
無制限に音楽を視聴することができるサービスだ。
ビーツ買収でアップルはこれまでの殻を破ることになるだろう。
同社はこれまで、発表の必要が小さな企業を
安く買収することが多かった。アップルが
これまでに行った最も高額な買収は
1997年のNeXT ソフトウエア。ジョブズ氏が
アップルに復帰するきかっけになった買収だ。
ビーツ買収にはその8倍の金がかかる。
さらに言えば、ビーツの創業者は
無名の技術者ではなく有名人だ。
ジミー・アイオヴィン氏は
音楽業界のベテランで、ドクター・ドレー氏は
ヒップホップアーティストであり、
プロデューサーでもある。
しかも、「ビーツ」ブランドには既に
多くの熱心なファンがいる。これまで、
アップルが扱ってきた唯一のブランドはアップルだった。
調査会社ガートナーのバイスプレジデントで
調査担当ディレクターのバン・ベーカー氏は
「誰もがアップルの進化を待望している」と話した。
クックCEOはこれまで、投資家や
ファンから新たな分野への進出を求められても、
待ってほしいと言い続けてきた。
先月のインタビューでも、
「成功させるのはそれなりの時間が必要だ。
われわれは一番乗りを目指したことはない。
目指しているのは最高のものを作ることだ。
物事をうまく行うには時間がかかる」と語り、
「準備しているものに自信を持っている」と述べた。
製品開発以外では、クック氏は既に方針転換を図った。
ジョブズ氏の在任中は
800億ドルを超えて積み上がった現金を
動かすことはなかった。クック氏は
ジョブズ氏より株主に配慮した政策を取っている。
アップルは先月、自社株買いの枠を
300億ドル拡大し、配当を引き上げた。
昨年も増配を実施、自社株買いの枠を
500億ドル引き上げていた。
クック氏は他の経営幹部が
表舞台に立つことにも前向きだ。
小売部門のトップに英国の高級ブランド、
バーバリーのアンジェラ・アーレンツ
元CEOを迎える人事を決めた。
ジョブズ氏の時代と比べて、
他の経営幹部が公に発言することが多くなり、
インタビューに応じることも増えている。
関係者によると、ビーツ買収の条件として、
アイオビン氏がアップルに加わるという。
アイオビン氏は米オーデション番組
「アメリカンアイドル」に定期的に登場しており、
ブルース・スプリングスティーンや
U2のアルバム制作を担当したことがある。
この関係者は「ジミーは目立つだろう。
普通の経営幹部ではない」と話した。
http://jp.wsj.com/news/articles/より
関連記事
アップル、音楽配信のヘッドフォンメーカー買収で協議―3,250億円
By ETHAN SMITH AND DAISUKE WAKABAYASHI
2014 年 5 月 9 日 09:20 JST
写真_画像を拡大する:ビーツ・エクレクロニクスのヘッドフォン~#12288; Getty Images
米アップルは米高級ヘッドフォンメーカーの
ビーツ・エレクトロニクスを32億ドル(約3,250億円)で
買収する方向で協議している。
事情に詳しい関係者が明らかにした。
ビーツは音楽業界の大物、ジミー・アイオヴィン氏と
ヒップホップ界のプロデューサーで
アーティストのドクター・ドレ(Dr. Dre)が
立ち上げた会社。今年初めには
音楽ストリーミング(逐次配信)サービスも開始している。
ビーツには米投資会社カーライル・グループ、
米複合企業アクセス・インダストリーズ、
仏メディア企業ビベンディ、アイオヴィン氏が
長年上級幹部を務めるユニバーサルミュージックグループなどが出資している。
実現すればアップルとしては
最高額の買収となる。この件について、
アップルはコメントを控えた。
ビーツの担当者にはすぐに連絡がつかなかった。
両社の協議については
英紙フィナンシャル・タイムズが
先に報じていた。買収が成立すれば
アップルは高級ヘッドフォンと
音楽ストリーミングサービスという
2つの急成長市場参入への足がかりを得ることができる。
月間定額料金で聴き放題の音楽サービスは
急速な勢いで成長している。
その先頭にいるのが北欧発のスポティファイで、
事情に詳しい筋によると、
同社の有料会員数は世界で1,000万人を超えている。
http://jp.wsj.com/articles/SB10001424052702304155604579550551462508362より