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市子

2024-03-16 21:30:00 | 映画
 日本アカデミー賞番組があった。小生は「月」の宮沢りえだな!と確信していたのだが。「パーフェクトライフ」は否定しないし、「福田村事件」なんかわざわざ吉祥寺まで観に行ったんだから。ということなんだが「月」はナシング。代わりに「市子」の杉咲花さんが和服姿で可愛いく佇んでいた。「ゴジラ」は間違いないと観た時から納得していた。
今年はなかなか作品が揃ったんじゃないか。

 Amazonプライムを覗くと「市子」の放映開始。タイムリーに拍手。タイトルしか知らなかった「市子」を9日に早速観た。
いーじゃないか!最優秀主演女優賞は杉咲花さんにあげたかった。

 時間軸がころころ替わることにケチをつけていた輩もいたが、自分で整理すれば分かるし面白さもジワっとくる作品だ。花さんがシリアスで難役を演じることに感心!岸井ゆきのさん(昨年の「ケイコ〜」ボクサー役)の方が小柄だが、花さんも小さな身体で頑張っている。 

 同棲中の長谷川(若葉竜也)にプロポーズされ思わず涙した市子は、翌日長谷川から逃げ出す。ベランダから飛び出し失踪。この日は浴衣を着て長谷川と花火を見に行く筈だったのではないか。衣紋掛けの浴衣が寂しい。

 後藤刑事(「亀岡拓次」のモデルの宇野翔平)が捜査開始。何故捜索願いが遅れたのかと長谷川に尋ねる。「少ししたら帰って来ると思って」そりゃそうだ、3年も幸せに暮らしていたのだから。されど長谷川は市子の素性を何も知らなった。
東大阪市出身の1987年生まれ、川辺市子は?「存在せえへんのですよ」後藤が答える。
ミステリーサスペンスがはじまるのだ。 

◯市子は悪魔か?
 同級生の北くんは高校時代から10年近く市子に付きまとい、市子のことを知り尽くしている。彼は市子と真剣に対峙する。「悪魔」と言わせてしまうが、この時点では殺害は月子、小泉の2人。悪く言えば、月子として生きるため月子の呼吸器を外したのだ。小泉は市子に対する人格、存在否定の攻撃的な発言と性暴力が原因だ。
 自殺願望の冬子と北くんを海岸近くまで呼び出した。その後どうしたのか?亡くなった冬子が市子とみなされることを計算して、北と市子(冬子)の心中事件か?事故死か?殺人か?市子が死亡したことになり、冬子として生きていく。そうなると悪魔である。 
◯母親が決めた市子の人生
 母親川辺なつみ(中村ゆり)はDV男とか訳あり夫を持ったことからか、市子の出生届けを回避し無戸籍としてしまった。妹の月子は誰の子か?小泉の子なのか?少女期から市子が月子として生きていかねばならない状況とした罪深い母親だ。月子の呼吸器を外した夜、何か言いかけた市子に耳を傾けず無言、童謡「にじ」を口ずさむだけ。自分を勇気づけようとしたのか?長谷川に「時間だけどんどん過ぎてゆく」と口惜しく言うなつみは、娘と恋人を市子に殺された立場なんだが、招いた責任はなつみ自身にある。なつみは男も娘もダメにする「厄病神」なのか?
しかし中村ゆりはセクシーでメチャ存続感ある役者だ。
◯月子の救い
平成2年6月27日生まれだ。
食卓を囲み母親、小泉、市子、月子の4人が写っている一葉の写真、市子は大事にしている。35度にもなる真夏日に、市子に喉の痰を吸引、口周りも拭いてもらっていたが、市子は月子の呼吸器を外したままやり過ごす。アラームが幾度も鳴り続ける。17歳の月子の潤んだ大きな瞳、眼差しが何を語っているのか?市子が大事にしている写真-普通の幸せのイメージには月子もいることが救いかもしれない。
◯北秀和はキーパーソン
 北くん(森永悠希)は月子・市子と花火を観に行きたかったのだが、果たせず。高校の頃からストーカー的行動をとる、勿論市子が大好きだからだ。
 夏休みガリガリくんを齧ってるとき市子と偶然に出会う。ちゃんと花火に誘えない内気な北。9月の驟雨にあった夕方見送りした日を境に北は変わっていく、成長というのか?市子の住居を覗き見をしていたが不穏な流れ、市子は小泉から性暴力を受けている。月子の死体処理を手伝わせたから耐えていたのか?その日は嫌悪と怒りが爆発してナイフを突き出してしまう。
「おれは市子のヒーローになるんや」言葉どおりヒーローになっていく北。小泉の始末を手伝う、その前にしっかりカーテンを閉める冷静さを持っている。何度も身を隠す市子を探し出す。北の言うことは極めてまともであり市子ときちんと対峙する。市子の強力な味方だが、市子にとっては過去を知り過ぎている北が邪魔だったのか。利用したのか?北くんは市子を全力で守ろうとする。キーパーソンになっている、リアルな演技に助演男優賞をあげてもいい。
北は市子に「悪魔」と言ってしまうが。
◯吉田キキは希望と夢をくれる
 長谷川、北に加えて市子の味方はもう一人、キキさん(中田青渚)がいた。おそらく小泉を殺した後だろう、毎晩ふらついていた市子を新聞配達に誘い、一緒にケーキ屋をやろうとまで言ってくれたキキ(田中青渚)さんがいい。当作品で唯一明るい役。市子にとって最も希望が持て勇気づけてくれる子だったのかもしれない。
◯小泉は家族だからと言った
 小泉(渡辺大知)は月子の実父ではない。戸籍謄本が映るシーンを見返さないと確認できないが。川辺なつみの恋人であり、東大阪市障害福祉課の職員。福祉現場のソーシャルワーカーをやっている。なつみにぞっこんであり、月子の在宅の医療機器などを調達している、月子を生駒山に埋めた死体遺棄の共犯者である。
夕刻、市子の帰りを待ち住居に入り込み家族なんだからと言う。市子に暴力を振るうが市子に刺殺されてしまう、遺体は市子と北に線路に運び出された。
◯さつきちゃん、梢ちゃん
 同じ公営住宅住まいのさつきちゃんとは取っ組み合いのケンカ、リッチな梢ちゃんとは発育のよい者同士のお友だち
重要なのは月子でいることは、3歳、3学年下の子たちと一緒にいることだ。この年代の1.2年の違いは大きい。市子はケンカには負けない筈だ。梢ちゃんはしっかりしてる良家の子で賢い子だ。何もかも分かってしまう頭の回転のいい子だと思う。
ケーキ屋をやる市子の夢の原体験は梢家で食べたショートケーキにある。
◯蝉
 波の音、クマ蝉、ひぐらし、文鳥の鳴き声、チェロ、バイオリン、童謡「にじ」、トンネル、ベランダ、ガリガリくん、花火、夏祭り…見事に効果的に構成されている。
風邪で寝込んでいる5月、北くんがケーキ屋で働く市子を探しだす12月、それ以外は夏。汗をかく夏のシーンが多い。月子の人工呼吸器を外してしまう真夏日の昼下り、長谷川と初めて出会う夏祭りの夜、プロポーズの翌日失踪してしまう8月の夕刻。小泉を刺してしまう夏の終わり。
◯ケチをつけられたが
 ケチをつけるひとがいる。障害者を殺害すること。なら「月」は全否定になるのか?
「月」は、宮沢りえの神がかりの演技と、お前自身はどうなんだとの強烈な問いかけに暫く動けなくなる衝撃を受けた。そんな映画はこれまでになかった。
月子との関係が描かれてない、自殺願望女子の登場は唐突だ。
厳しい指摘だが、ミステリーなんだから説明は不用だろう。まさか誰かの台詞に入れるのか?後藤刑事とかなつみに喋らせるしかないだろうが、説明過多になっては作品をぶち壊すことになる。むしろもっと台詞を減らしてもいい位だと思っている。文学でも論文でもない映像で表現する映画なんだ。
十分計算されて、時間軸の構成も含めいろんなシーンに伏線を張りめぐらせている。
何故あの夏、月子の呼吸器を外したままに死に至らしめたのか?なつみと長谷川の会話が説明になっているのか?恐らく市子が子どもの頃から月子の介護をやっていただろうことは容易に想像できよう。ヤングケアラーだ。市子が月子を死に至らしめて痛み感じていない筈がない。市子自身が一番傷つき悪魔と呼ばれても甘受せざるえないのだ。夢など持っちゃいけないのだとキキには打ち明けている。
いずれにしても観たひとが考えて想像できる、余韻を残す作品だから評価されるのだと思うが。

長々と書いてしまったが、ネタバレが沢山入ってしまった。

◯続くとすれば市子はどうなるのか?
 市子は冬子として生きていく、痛々しいが逞しく。戸籍はないし市子は北と死亡したのだから、思惑どおり冬子になりすます。そうして「にじ」を口ずさむ。
冬子と北クンの遺体が発見され、逮捕は時間の問題のような気もするのだが、なつみがどう証言するかがポイントだろう。なつみは市子に不利な発言は言う筈がない。長谷川は勿論キキだって。証拠不十分で不起訴だろう。

長谷川が市子を探しだすだろうか。たぶん探し出し市子を抱きしめるだろう。
フェリーのデッキにいる長谷川に、なつみが深々とお辞儀をしたのは市子のことをお願いすると言う意味だ。月子にも小泉にも直接手を下していないなつみは、市子に対して何をしてあげれるのか?無責任な母親なのだろうが長谷川に託すしかないのだ。

キキさんとのケーキ屋さんは再び一緒にやれるのだろか。キキの性格ならやれる。キキは市子の優しさを知っている唯一の友だちなのだ。
そんな陳腐な通俗的なことを考えてしまうのは、杉咲花さんが可愛すぎ、凄すぎ、演技が上手すぎて、市子には幸せになって欲しいと思わせてしまうからだ。

恋人長谷川との同棲生活初日、二人並んで撮った写真。
侯孝賢の「悲情城市」を思いだした。


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