きものの華・友禅染④ 小袖雛形本(1)
友禅が瞬く間に一世を風靡した背景には、友禅の革新的なデザイン、華やかな絵画的な染色技法の開発にありますが、もう1つ大きな役割を果たしたのがメディアの発達、「小袖雛形本」の刊行があります。「雛形」は現物を縮小した見本で、江戸時代には染織に限らず、「大工雛形」や「棚雛形」など建築関連や菓子意匠、陶器意匠など様々な雛形本が出版されましたが、中でも「小袖模様の雛形集」は人気を呼び、種類も多く、刊行部数も多く、現代のファッション誌のように多くの町人の女性たちに読まれました。
ここでいう町人とは落語にでてくる八さん、熊さんではなく「自前の家屋敷を持つ者」をいい、町政や公事に関与し、町年寄りを選ぶについては選挙権や被選挙権を持つという市民権の所有者だった、旦那衆のことです。明暦、万治、寛文、延宝、天和、貞亨、元禄(1655-1704年)と時代が落ち着くに従って町人が経済力をつけ、京都、大阪、江戸ではそれまで仏典や医学書、史書などが中心で、特権階級のものだった書籍を営利目的で出版事業が始められ、京都では俳書、重宝記などの実用書、大阪、江戸では仮名草子や浮世草子、好色本や滑稽本が多く出版されるようになっていました。この時代のベストセラー、井原西鶴の「好色一代男」は、天和2年(1682年)に大阪版、江戸版が発刊されました。またそれまでは活字版でしたが、この時代は絵や文字を反対に木に彫り込む版木による印刷が主流になり、浮世絵の隆盛もこの版木なくしては語れません。
*掲載図版は「正徳ひな形」です。