MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1333 パナソニックの次なる戦略

2019年03月31日 | 社会・経済


 パナソニックと言えば、ものつくり国家日本が誇る家電メーカーとして(海外をも含め)知らぬ人はない大企業のひとつです。国内電機業界では日立製作所、ソニーに次いで3位。従業員数は世界で27万人を超え、売り上げも連結で8兆3000億円(2019.3)に及んでいます。

 その歴史は古く、後に「経営の神様」と呼ばれた松下幸之助が(今からちょうど100年前の)1918年(大正8年)に大阪市東成区の借家で松下電気器具製作所を創業、電球用ソケットの製造販売を始めたところにまで遡ります。

 当時の電球は自宅に直接電線を引く方式で、電球の取り外しも専門知識が必要な危険な作業であったということです。そこで、簡単に電球を取り外すことができる電球ソケットを考案した幸之助は、さらに(自らのアイディアである)二灯用差込みプラグなどもヒットさせ、松下電器産業を軌道に乗せます。

 昭和の初期には自転車用角型ランプや電球、真空管ラジオなどで、電気の松下は日本中の家庭におなじみとなり、既に昭和の10年代には登録商標としての「ナショナル」の文字を家庭で見ない日はないと言っても過言ではなかったかもしれません。

 その後、日本の敗戦により、満州や朝鮮、台湾などの海外資産の全てを失い、GHQから制限会社の指定を受けていた松下電器産業でしたが、2年後には早くもラジオの製造を再開、「ナショナル」ブランドを復活させます。

 その後は高度成長の波に乗り、冷蔵庫や洗濯機などの白物家電ばかりでなく、テレビ、ポータブルラジオはもとより、ステレオ、テープレコーダー、ビデオなどの音響機器、空調や調理器具、はては自転車や住宅に至るまで、世界的な総合家電メーカーとして一世を風靡したのは多くの日本人が知るところです。

 しかし、1991年のバブル崩壊以降、電気製品による近代的な生活を夢見る世界の消費者を魅了してきた日本の家電企業は、かつての存在感を発揮できなくなっていると言えるかもしれません。

 (御多分に漏れず)パナソニックも、バブル経済の崩壊とともに同時に長い停滞期に入ります。この30年、企業としての最終損益は黒字と赤字を行ったり来たりするところとになり、かつての日本を代表するものつくり企業が「変われない日本企業の象徴」と言われるようにすらなっています。

 創業者松下幸之助が作ったパナソニックの社訓は「産業人たるの本分に徹し、社会生活の改善と向上を図り世界文化の進展に寄与せんことを期す」というもの。パナソニックを貫く、産業によって世界人類の社会生活を向上させ、世界の文化を進展させるという強い意志は、社会のデジタル化の中にどのようなポジションを見つけていくのか。

 2月10日の日経新聞(朝刊)に、創業100年を迎えた現在のパナソニックを率いる津賀一宏社長への興味深いインタビュー記事が掲載されていましたので、備忘のためにその一部を残しておきたいと思います。

 デジタル化により家電のコモディティー(汎用品)化が進み、中国勢や韓国勢が世界市場を席巻する現在、日本のものづくり企業は縮むしかないのか…、そんな思いの下、記事は津賀氏に日本の家電メーカーがその存在感を弱めた理由を聞いています。

 「あれは何年前だろう。(2012年に)社長になる前、米国の店に行ったら消費者がうちのプラズマテレビとティッシュとバナナを同じワゴンに入れて買っていた。『テレビが安いからプールサイドかガレージで使うんや』と。開発者はホームシアターとしてリビングで使ってもらおうと高画質にしているのに」と氏は十数年前の光景を振り返ります。

 その時氏は、「アホらしくてやってられるか」と思ったということです。我々はなぜ世界を席巻する商品を出せていないか…その答えは単純で、日本のお客様の声を聞いてきたからだと氏は言います。

 中韓メーカーの台頭や円高などいろいろある。だがそれ以上に大きいのは、日本の厳しい消費者に受け入れられる製品はグローバルでいい商品だという思い込みがあったから。そこで、「パナソニックでは今後、機能が優れ装備がリッチであればいいという高級・高機能を追求する『アップグレード型』はもうやめる」と、津賀氏はこのインタビューで宣言しています。

 これから先、同社を「暮らしの中で顧客がこうあってほしいと望むことを、製品に組み込んだソフトの更新で順番にかなえるような『アップデート型』に変えていく」と氏はしています。

 今のイノベーションはほとんどソフトウエアで起きている。ハードウエアの進化が一定段階になると、ハードを動かすソフトがイノベーションを起こす。ハードは単にソフトのイネイブラー(目的を可能にするもの)になるということです。

 そうした時代に、メーカーの生きる道はどこにあるのか。氏はそこで、「我々が目指しているのは『くらしアップデート業』だ」と説明しています。パナソニックはもはや「メーカーであってメーカーではない」。この世の中、絶対的に最高なものがあるわけではない。商品開発の発想そのものに、そういった「メーカー視点」からの転換が必要だということです。

 津賀氏がここで理想としているのは、「ハードを作らないメーカー」(=ファブレス化)という非常に先鋭的なものです。

 ファブレス(fabless)とは、その名の通りfab(fabrication facility、つまり「工場」)を持たない会社のこと。工場を所有せずに製造業としての活動を行う企業を指すビジネスモデルを指す言葉です。

 これからは、「製品の仕様を出して誰かに作ってもらう」と氏は言います。勿論、品質や調達など高いレベルが必要で、丸投げのファブレスは成立しない。そこで、日本の工場で品質面などを実証した上で海外の生産はパートナーに任せるなど、信頼されるファブレスへ化へのシフトがこれからのパナソニックのメイン戦略になるということです。

 さて、世界に冠たる日本の「ものつくり」企業も、いよいよここにまで来たかと言う感じですが、確かに現代の消費者のニーズというものは多種多様で、商品に必要なのは「価値」を作っていくアイディアと企画力であるという指摘も頷けます。

 一つ一つの部品から自社開発するのではなく、「在りもの」を上手く使いながら新しい機能を加え、それらをソフトウェアでつないで生活を豊かにしたり、新しい文化を提案していく。

 大メーカーを率い、動かしていくためのハンドルさばきはそう簡単ではないかもしれませんが、松下幸之助の精神は、確かに津賀氏のこうした発想の中にも息づいているのかもしれないと、私も興味深く受け止めたところです。




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