MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2722 オールドメディアが衰退する理由

2025年01月24日 | 社会・経済

 タレントの中居正広氏の女性トラブルに社員が関与したと一部週刊誌で報じられた問題で、70社以上の企業がCM放送を差し止めに及んでいるフジテレビ。社員の関与が報じられる中、港浩一社長が記者会見で調査委員会の設置などを盾に詳しい説明を避けたことなどで、厳しい世論に晒されています。

 そもそもこの問題が世間の耳目を集めたのは、週刊誌の記事から始まったトラブルに関する報道が、(ネットメディアなどに大きく取り上げられているにもかかわらず)テレビの在京キー局や大手新聞各社がこの事件にほとんど触れようとしなかったからだと考えられます。

 ジャニーズ事務所による性加害の隠蔽やダウンタウンの松本人志氏の女性トラブルなどとも繋がるオールドメディアのこうした態度に、(「やっぱりな」と)不信感を募らせた人も多かったのでしょう。強力な発信力をもとに、戦後の高度成長後も大きな権威を保ってきた(テレビ局を中心とした)マスメディアも、(「権威」のコントロール下にない)ネットメディアやSNSの前では、既に戦う術を失っているようにも見えます。

 近年では、主要な選挙などでも大きな影響力を及ぼすようになっているネットメディアに対し、テレビ、新聞などのオールトメディアの信用は何故、これほどまでに凋落の一途をたどっているのでしょうか。

 メディアを巡るこのような状況に対し、年明け1月4日の経済情報サイト「東洋経済ONLINE」に桜美林大学准教授の西山 守氏が『「オールドメディアの衰退」は現実となるか』と題する一文を寄せているので、参考までに指摘の一部を残しておきたいと思います。

 今年は、トランプ政権誕生で政治的な議論が世界的に活発化することが予想されるし、日本では参院選もある。ネット上では政治の話題が大いに盛り上がるだろうと西山氏はこの論考の冒頭で予想しています。

 昨年11月の兵庫県知事選では、SNSで斎藤氏の応援が盛り上がった。斎藤知事のパワハラ・おねだり疑惑では「既得権益層に陥れられた」という論調がそこに形成され、マスメディアの報道は「偏向している」と叩かれと氏は言います。

 そして、知事選の開票日。NHKによる出口調査では、「投票する際に何を最も参考にしたか」という質問に対し、最も高かったのがSNS・動画共有サイト(30%)で、新聞(24%)、テレビ(24%)を上回った由。また、10代、20代の若者層の多くは斎藤氏に投票したことも判明しているということです。

 選挙戦を通じ、「オールドメディアは信用できない」「SNSで得られる情報は真実」という論調が出てきた。しかしその一方で、蓋を開けると、SNSが真実を伝えているとも限らなければ、偏向していることも多いことが露呈したと氏は話しています。

 そして、今年は参院選挙や都議選など、さらに大きな政治的イベントがある。(今回の経緯を踏まえれば)オールドメディアとSNSが抱える問題は一層、顕在化していくだろうというのが氏の懸念するところです。

 さて、オールドメディアとSNSは対立関係にある、あるいは代替関係にあるという意見も目立つのだが、(もちろん)相乗効果をもたらしたり、相互に補完し合ったりする側面あると氏はこの論考を続けています。

 オールドメディアの報道が一方的な場合もあるかもしれないが、(他方で)裏を取れない情報や一般人のプライバシーに関することは報道しづらいという面もある。斎藤知事を告発した元幹部に関する詳しい報道がされないのは、圧力や忖度によるものではなく、死者や遺族に対する配慮からだというのが氏の見解です。

 また、三菱UFJ銀行の行員による10数億円の窃盗事件に関しては、「テレビであまり報道されないのはおかしい」という声があり、SNSでは、それを「大企業の圧力によるもの」として批判する声も目立っていたと氏は言います。

 しかし、テレビや新聞が実名を報道しないのは、刑事事件になっていないからで、企業の圧力やメディアの忖度があるからではない。メディア報道に対する誤解から、SNSでは過度なメディア批判が巻き起こり、事実と異なる情報が拡散してしまうこともあるということです。

 そもそも、世の中には事実関係が不明なこと、また、わかっていても報道できないことは沢山ある。その欠損部分をSNSが埋めているところはあるのだが、その中には臆測やフェイク情報も多いというのが氏の認識です。

 そうした場面において、ファクトチェック、すなわち真偽を確認・検証する役割は、今後もオールドメディアの重要な役割であり、存在意義でもある。問題なのは、そうしたメディアが収益を上げることが難しくなっている点にあるというのが西山氏の指摘するところです。

 自分で取材を行わず、SNSやインターネット、他のメディアの情報をそのまま取り上げて記事にする(いわゆる)「こたつ記事」の氾濫。昨年は、(大手新聞社である)毎日新聞までもが芸能人の偽アカウントの情報に基づいたこたつ記事を配信して、フェイクニュースを拡散したことで問題になったと氏はしています。

 こたつ記事の存在自体は必ずしも全否定すべきものではないが、時に規制をかけることも必要となる。もちろん、フェイクニュースを流したり、他人の権利を侵害したりしたメディアには、(場合によっては)重い罰則を課するといった措置も必要になるだろうということです。

 一方、ネットメディアが実質的に無法状態にあるにもかかわらず、オールドメディアがコンプライアンスなどに(雁字搦めに)縛られている現状もあると氏は話しています。メディア報道に関する規制は、法規制以外にも自主規制があるのだが、時代に合わない規制は変えていく必要があるということです。

 例えば、選挙に関する報道の制約は、自主規制に負うところが大きい。公共放送であるNHKはさておき、民放各局は「自主規制」や「中立性」といった大義名分にとらわれすぎることなく、独自の報道をすればよいというのが氏の見解です。

 コンプライアンスなどに(過度)縛られて、個性や独自性を失ってきた近年のマスメディア。おそらくは、7月に行われる参議院参院選でオールドメディアの時代への対応力が改めて問われることになるだろうと氏は話しています。

 いずれにしても、彼らが一括りにされて「オールドメディア」という言われ方をしてしまうのは残念なこと。恐らくそこには技術の面だけではなく、メディアとしての態度の面の問題も大きいように思うと話す西山氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。



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