生まれた頃から低成長の中で育った(注目の)Z世代が、いよいよ社会で働き始める時期がやってきました。
少子高齢化が進む中、上の世代のような厳しい競争を経験していない彼らは、ガツガツとした闘争心のようなものとは無縁です。一方で、多くの情報やデジタルデバイスに囲まれ、また「コスパ」(コストパフォーマンス)や「タイパ」(タイムパフォーマンス)を重視するリアリストであることもまた彼らの特徴の一つ。第二次ベビーブーマーとして、あるいは就職氷河期のサバイバーとして時代を生き抜いてきた管理職やリーダーたちは、常にクールで効率性を見極める(デリケートで異質な)彼らとどのように向き合ったら良いのか。
戸惑う管理職の皆さんに向け、金沢大学教授の金間大介氏が3月17日のビジネス情報サイト「東洋経済ONLINE」に、『リスクを負わず自分を差別化したい若者の生存戦略』と題する論考を寄せているので、指摘の一部を(引き続き)小欄に残しておきたいと思います。(『#2724 蔓延する「いい子症候群」(その1)』から続く)
氏が知るアンケート調査によれば、首都圏在住の18歳から26歳の社会人の男女のうちおよそ6割が、「大勢の前では褒められたくない」と回答している由。首都圏限定というところにサンプルバイアスはあるものの、直感的にいい子症候群気質が低そうな首都圏の若者でさえ、人前でほめられたいと思う若者は4割弱しかいないことに驚かされると氏はこの論考で指摘しています。
このような現在の若者たちの特徴を前に、「これは非常に大きな問題」「どのように解決すべきか」という視点で問いを立てる識者も多いが、一方で私(←金間氏)自身は、若者たちの「いい子症候群化」を問題だとは考えていないと氏は言います。
「いい子症候群化」は社会現象であって、決して「日本社会の課題」ということではない。あえて言うなら、これは現在の若者たちの「自己防衛反応」ではないかというのが氏の指摘するところです。
強いて言えばこういうこと。かつての若者の気質はもっとわかりやすいものだった。陰キャ/陽キャの区別はもちろんのこと、趣味やその他プライベートなライフスタイルまで、何らかの形で表面に現れていたと氏は言います。
そして、反応がある程度予想ができる分、(大人たちにとって)「彼女はこっちの部署が合いそう」「彼はこの仕事が合うかも」といった風に、若手社員のマネジメントは楽だった。それに、大人たちの間にも、予想が外れたときに「えー!そうだったの?」と言える空気も(当時は)残っていたということです。
それが、今は違う。みんな爽やかで、みんなコミュ力高め。表面的に観測できる水準(レベル)は昔よりも明らかに上がっている。良く言えば、人材としての質的向上で、企業、特に人事部の人たちがこぞって「最近の若者はみんな優秀」という根拠がこれだと氏は説明しています。
しかし、それは悪く言えば、「量産化」が進行しているということ。量産化といっても、いわゆる雑魚キャラではない。「あなたは他の誰でもない、唯一無二の存在ですよ」「あなたの経験や体験は、あなただけではなく、この国にとっても貴重なものなのです」と、成長の過程でちゃんと教えられてきた量産型だということです。
さて、ここが重要なポイントなのでしっかり主張しておきたいのだが、僕(←金間氏)のこれまでの見立てでは、現在の若者の多くは「量産型」であり「唯一無二の存在」だと氏はここで強調しています。
矛盾する2つの概念を組み合わせて生きるのは、今の若者のお家芸というもの。周りと同じではいけない、個としての貴重な体験こそが君を唯一無二の存在にすると教わり続け、事実、就職活動でも「隣の人と君との違いは何か」「隣の人ではなく君を採用する理由は何か」…を問われ続けてきたのが彼らの世代だということです。
しかしそんな彼らでも、他人と違う自分に(そう易々と)自信が持てるはずもない。平均値付近にいることの安心感、安定感は手放せないと氏は記しています。
子供のころからの「失敗しない」ためのトレーニングを積むことで、(すでに入社の段階で)一定のパフォーマンスを自分のものにしている若者たち。しかしその一方で、それ故「規格外」にこぼれ落ちることを(必要以上に)恐れ、率先してモブキャラでいることを選択する彼ら自身も、(大人たちの前で)結構難しい綱渡りをしているということでしょうか。
金間氏によれば、そうした矛盾を内包するように得たスタイルが、この「量産型」兼「唯一無二の存在」というものとのこと。唯一無二の存在というラベルを貼った量産型と言うべきか。今の若者はとても難しい役割を演じているのだと話す氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。
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