MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2721 デフレ脱却と政治の流動化

2025年01月23日 | 社会・経済

 前回の衆議院議員選挙における自民党の敗北で流動化した日本の政治状況。折しも、米国や隣国韓国において政治の大きな混乱が生じる中、この日本でも従来の自民党中心の政治の不安定さが増せば、自衛隊と米軍の連携強化など安全保障政策の推進が遅滞するとの指摘もあるようです。

 前回総選挙の自民党の敗北により、国内においても政権運営に向けた政党間の交渉、せめぎあいがしばらくは続くと予想されています。その間、選挙の焦点となった裏金問題のみならず様々な政策論議が盛んになるでしょうが、特に(予算関連の審議における)経済対策については、一貫性を欠くものとならないよう財政的な裏付けについて注意していく必要がありそうです。

 それにしても、選挙で国民からキツイお灸を据えられたとはいえ、先の自民党総裁選であれだけ日本の未来を語っていた石破茂新政権の、現在の元気のなさは一体どうしたものなのでしょう。いわゆる「裏金問題」だって、直接自分がかかわっていたわけではないのだから、それをきっかけに既存の派閥をコテンパンに潰したり、夫婦別姓や教育問題などに思い切り切り込んでもよいような気がするのですが、なかなかそうした(開き直った)気持ちの良い動きが見えてきません。

 石破首相には、時に「自民党をぶっ壊す」と大見えを切った小泉純一郎首相のように、国民に向け朗らかで明るい笑顔を見せてもらいたいものだと思うのは私だけでしょうか。そんなこと感じていた折、作家の橘玲氏が「週刊プレイボーイ誌」に連載中の自身のコラム(11月11日発売号)に『2年前の夏の凶弾が日本を変えた?』と題する一文を寄せ、最近の政治環境の変化について指摘しているので、その一部を小欄に残しておきたいと思います。

 先の衆院選で過半数を割る大敗を喫した自民・公明の両党。歴史的な敗北の背景には、2年以上も続いた実質賃金の低下があるというのが氏の認識です。安倍政権は「日本復活」を賭けてリフレ政策を採用したが、日銀がどれほど金融緩和しても物価は反応せず、(代わりに)円高が修正され日本経済は「豊かにはならないが貧乏でもない」という、(ある意味)ぬるま湯につかってきたと氏は話しています。

 超低金利の下では、銀行に預けたお金が増えることはないが、物価が安定していれば、去年と同じ暮らしが今年、来年へと続いていく。これはとりわけ、年金で暮らしている高齢者に大きな安心を提供するとともに、業績がふるわない中小企業も(銀行からの借り入れにほとんど金利がかからないので)市場から退出を迫られる心配がなかったということです。

 加えて、人類史上、未曽有の超高齢社会に入った日本では、需要と供給の法則によって、稀少な若者の価値が上がっていったと氏は言います。労働市場は、大学を卒業すれば(あるいは高卒でも)ほぼ確実に就職できるし、就活がうまくいかなくても20代であれば簡単に転職できる「売手市場」となり、これが、安倍政権が若者のあいだで高い支持率を維持できた理由のひとつとなったということです。

 しかし、こうした経済条件は新型コロナの蔓延と、ロシアのウクライナへの侵攻によって劇的に変化。これまで日銀がなにをやっても動かなかった物価が上昇しはじめたと氏は話しています。

 これで日本はようやくデフレから脱却できたが、その後にやってきたのは、リフレ派が言っていたような「日本経済の大復活」ではなかったというのが氏の指摘するところ。給料が少し位増えても、生鮮食料品や電気代などの物価がそれを上回って上昇すれば家計はどんどん貧しくなっていく。一方、「超円安」で欧米やアジアなどから外国人観光客が「安いニッポン」に殺到し、「日本は欧米以外ではじめて近代化に成功した経済大国」というプライドすら失われていったということです。

 そして、こうして国民の不満が溜まっているところに起きたのが、件の「政治とカネ」問題だったと氏は説明しています。自民党の政治家にとってこれは、パーティで集めた資金を派閥に上納し、そのキックバックを記載しなかったという実務上の話に過ぎなかった。税金を詐取したというわけでもなく、(なので)単なる帳簿の不記載だとたかをくくっていたということです。

 しかし、国民の受け止めは違っていた。自分たちが苦しい家計を必死にやりくりしているのに、政治家は「裏金」でいい思いをしているという反発は予想以上。それに気づいて関係する議員を非公認にしたが、にもかかわらず(投開票日直前に)2000万円の活動費まで支給していたことが報じられ万事窮したと氏はしています。

 結果論でいうならば、石破首相は自民党議員の既得権に配慮するのではなく、これまでの正論を貫き通したほうがよい結果を得られたかもしれない。しかし、いずれにしても(自民党全体として)既に対応は手遅れだったのだろうというのが橘氏の見立てです。

 今回の選挙で、政治の流動化がよりはっきりしたと橘氏は言います。野党ではすでに議員の離合集散が当たり前になっており、派閥が選挙を仕切れなくなれば、自民党でも同じことが起きるのは当然のこと。それほどまでに、2年前の夏の凶弾が(その後の)日本の政治に与えたインパクトの大きさには驚かされるとこのコラムを結ぶ橘氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。



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