MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2732 経済を回すのは「不安のない老後」

2025年02月03日 | 社会・経済

 日銀が12月18日に発表した2024年7〜9月期の資金循環統計(速報)によると、9月末時点の家計の金融資産残高は6月末に比べて1.5%減の2179兆円。前四半期末からの8四半期ぶりの減少となったということです。

 株式相場の下落や、円高による外貨資産の円換算額の低下がその原因とされており、その実相は消費に伴う減少とはいささか趣を異にしている様子です。実際、現預金は0.3%増の1116兆円で、保険・年金・定型保証は540兆円で横ばいが続いている由。構成比を見ても、現預金が51.2%、保険・年金・定型保証が24.8%と、1位、2位を占め、「老後の備え」に重きを置く家計の姿が見て取れます。

 一方、内閣府が今年8月に発表した経済財政白書によれば、年齢別でみた世帯あたりの金融資産の平均額は50代までは年齢が上がるごとに増え、60~64歳でピークの1838万円に達しているとのこと。60代後半からは減少に転じるものの、「取り崩し」のペースは緩やかで、85歳を過ぎても1500万円超の金融資産を保有し(←つまり、20年間で300万円ほどしか減っていないということ)、その減少率は1割半にとどまるということです。

 また、米国FRBの調査との比較では、70歳以上の層が保有する資産の割合は、米国の約3割に対し日本は約4割と大きく上回り、構成比でも、日本人の資産の約7割が「預金」なのに対し、米国では預金は1~2割、株など有価証券が3~5割と、日本の「資産保全第一」「リスク回避」の傾向が際立っていると白書は指摘しています。

 「老後生活の安心材料」として、消費されることなく高齢世帯に滞留している日本の富。一方で、利殖や投資ではなく定期預金に(手つかずで)積み上げられたまま放置されている「お宝」を活用しようという意欲は、(政府からも経済会からも)余り感じられません。

 それでは、こうして貯めこまれた資産はその後どうなっていくのか。白書には、被相続人(遺産を残す側)の7割超が80歳以上(2019年時点)なのに対し、相続人(遺産を受け取る側)も60歳以上が5割超(22年時点)となっており、「老老相続」で財産が引き継がれている実態も示されています。

 還暦を大きく過ぎてから親の家や土地を相続したとしても、個人では既に使いようがなく、貸したり売ったりといった手続きも億劫なもの。使う当てのない現金も、(今さら株に手を出すつもりもないし)銀行に言われるまま手つかずで定期に積み置かれることになるのでしょう。

 お金が必要な時、必要な人にお金が回らない世の中を、もう少し何とかできないものか。こうした現状について白書は、「資産移転が高齢者間にとどまり、子育てへのニーズが高い若年世代への移転が進まない課題がある」と指摘しています。

 資産が有効に使われるため、①経済成長に対する期待を引き上げる、②教育資金の一括贈与にかかる非課税措置などで資産移転を後押しする、③長生きリスクに対して公的年金制度の持続可能性を確保する、④「貯蓄から投資」の流れを進め、若年期から収益性の高い資産形成を促す、などの対策を積極的に進めていく必要があるということです。

 まあ、いずれにしても、高齢者のお金が(使われずに)貯め込まれるのは、老後の生活に不安があればこそ。北欧ではありませんが、国や自治体が福祉制度によりしっかり面倒を見てくれると判れば、(それなりに)「きっちり使い切ろう」という気持ちにもなろうというものです。

 人生は、楽しんでこそなんぼというもの。おカネだって、使われなければ世の中の役に立ちません。我慢して、切り詰めて、その結果が預金通帳に並んだゼロの数というのでは(何とも)悲しすぎると思うのですが、果たしていかがでしょうか。



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