MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯359 3人目のハードル

2015年06月12日 | 社会・経済


 厚生労働省が6月5日に発表した2014年の人口動態統計(概数)によると、1人の女性が生涯に産む子どもの推定人数を示す合計特殊出生率は1・42となり、前年の調査よりも0・01ポイント減少して9年ぶりにマイナスに転じたということです。

 日本の合計特殊出生率は、過去最低の1・26を記録した2005年以降持ち直の兆しを見せており、この10年ほどは、若干ではありますが増加(または少なくとも横ばい)の傾向にありました。急激な人口減少が経済や社会保障に与える影響が懸念される中、少子化を国家の喫緊の課題と位置付け、本格的な対策を開始したばかりの政府や自治体の関係者にとって、今回の統計数値はそうした意味で極めてショッキングな内容と言えるでしょう。

 新聞報道等によると、出生率が前年比で低下した理由としては、20歳代の(女性の)出生率が下がったことが大きいということです。それを裏付けるように、日本人の平均初婚年齢は男性が31・1歳(前年30・9歳)、女性が29・4歳(同29・3歳)と共に過去最高を記録しており、若者の晩婚化が一層進んでいることがデータからもはっきりと見てとれます。

 結婚した夫婦の出生数を見ると、1970年の2.2から2010年の1.96までほぼ2.0の水準で推移(国勢調査)しており、一旦結婚したカップルは平均で2人前後の子供を生んでいることが判ります。一方、30~34歳の年代の未婚率を見ると1970年の男性12%・女性7%から、2010年では男性35%・女性25%まで急上昇しており、出生率低下の主な要因が未婚率の上昇にあることは、こうしたデータからも明らかになっています。

 日本の人口減少を食い止めて(少なくとも緩和させて)いくためには、まず、このような高まりつつある未婚率を引き下げるための政策が必要であることは言うまでもありません。生物学的な出産の適齢期を迎えた人々が、希望を持ってカップルとなり(叶うならば)家庭を持つことができるような条件を整える必要があるということです。

 しかし、いくら婚姻率を上げると言っても、全ての人が結婚しなければならない社会などが暮らしやすいわけはなく、加えて、子供を求めてもそれが叶わないカップルも当然一定の割合で存在し続けることでしょう。

 一般に、人口の水準を維持するためには、合計特殊出生率が2・07以上である必要があるとされています。つまり、がんばって3人目、4人目の子供を生み育てる人々がいなければ、社会が人口水準を維持していくことは難しいということになります。

 しかし、現実問題として考えてみると、3人の子供を産み育てる決心をするには、親の助けなく2人で暮らすカップルにとって相当な覚悟が必要になるのではないでしょうか。

 子供たちに兄弟がたくさんいるのは良いことだとは分かっていても、教育にかかる費用の問題、子供が大きくなった後の住まいの問題、そればかりでなく当面の世話を誰ができるのかという身近に迫った問題を考えると、二の足を踏んでしまう立つカップルも多いことと思います。

 思えば、夫婦2人に子供2人というモデルにあまりにも慣らされてきた「平成」育ちの世代にとって、子供が3人いる暮らしというのはなかなかイメージできないものなのかもしれません。

 サザエさんに登場する(昭和に生きる)磯野家は、サザエ-カツオ-ワカメの3人兄弟でした。しかし、その次の世代を担うタラちゃんは(今のところ)一人っ子。天才バカボンのバカボン家はバカボン-ハジメちゃんの二人兄弟、クレヨンしんちゃんの野原家も、しんのすけ-ひまわりの2人兄妹です。

 そうした視点でいろいろ見てみると、(規格から外れた)5人家族の暮らしは、実は結構大変なことがわかります。

 役所が示す年金や税金のモデルは(さらには生命保険のモデルなども)夫婦2人に子供2人と決まっています。家族向けのマンションと言えば普通は3LDKのことであり、4LDKとなればグッと値段が張るよほどの贅沢品になってしまいます。

 電車やファミレスのボックス席は4人掛け。子供を3人を抱えて自転車に乗ることはできませんし、軽自動車に大きくなった子供と5人で乗るのはかなり窮屈です。量販店で安売りをしている洗濯機や冷蔵庫のサイズは4人家族を前提にしたもので、スーパーで売っている魚や野菜のパックも4人前のレシピが基準になっています。

 日本経済研究センターの少子化班のレポートによると(2011.7.12公表)、子育て中のカップルへのアンケート調査の結果、1人目の子供を持つに当たっては「不妊」の問題が最も大きな障害となっており、二人目を躊躇する理由の最も大きなものとしては夫の育児協力の無さや保育施設の不足が挙げられているそうです。そして、3人目を持つかどうかの決断に当たっては、「家計上の制約」つまり経済上の理由が最大の足かせとなっている場合が多いということです。

 こうした調査結果を受け、レポートは、少子化対策を進めるためには子供の人数に応じたきめ細かな政策アプローチをとる必要があると提言しています。不妊治療、待機児童の解消、イクメンの啓発、家計への助成など、必要な人に必要な支援を適切に届けることが効果的な少子化対策に繋がるという指摘です。

 さて、そうした行政などによる支援策に加え、本気で少子化対策を進めようとするならば、子育てを優先的に考え、子供がたくさんいてもストレスなく暮らせる社会の仕組みを整えることがまずは必要となるでしょう。

 子供が3人いる暮らしはそれだけでかなり「賑やか」なものとなりますが、都市部の住宅街では、子供の声がうるさいという御近所からの苦情が後を絶たないという話を最近しばしば耳にします。満員の通勤電車に子連れで乗ったり、職場に子供を連れてこざるを得なかったお母さんに突き刺さる周囲の冷たい視線などを想像するにつけ、まずはそうした社会の有様から見直していくことの大切さも強く感じるところです。

 例え人口が減少したとしても、子供を作る作らない個人の自由ではないかという意見ももっともだとは思います。しかし、生物学的に最も適切な時期に幸せな家庭を築き社会の存続を図れるような環境を整備することが、究極的にはその上(前)の世代の責任であることは論を待ちません。

 「子供は社会の宝」とはよく言ったもの。各世代が子育ての苦労や楽しさを分かち合う、そんな社会を作っていくことが、少子化対策の基本にあると言えるのかもしれません。




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