MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯358 僕らが選ぶ未来

2015年06月11日 | 日記・エッセイ・コラム


 5月17日に投開票された「大阪都構想」の是非を問う住民投票の結果、有効投票の1%にも満たない1万741票という僅差で都構想への反対票が賛成票を上回り、大阪市はこれからも政令指定市として存続していくことになりました。

 投票率は最近の都市部における選挙における水準を大きく上回る約67%と極めて高く、投票総数も140万を越えるなど、橋下市長のパフォーマンスへの注目度ばかりでなく、市民生活に大きな影響を及ぼす身近な行政システムの有様を直接判断する機会として、この住民投票が広く市民の関心を集めたことが判ります。

 さて、住民投票の結果は結果として、その後、50歳代以下の若い層では賛成派が多かったのに対し、70歳代以上では逆に反対派が優勢だったという有力マスコミ各社の出口調査の結果が報じられると、ネット上では、「70代以上の高齢者の反対投票によって結果が左右された」として、いわゆる「シルバーデモクラシー」への懸念が、特に若い世代から数多く示されるようになりました。

 このような世論の指摘を背景に、「週刊プレイボーイ」の6月1日発売号では、作家の橘玲(たちばなあきら)氏が、「大阪都構想の住民投票が教えてくれた日本の未来」と題する興味深い論評を行っています。
 
 この論評において橘氏は、(他市よりも高いとされる)大阪市の福祉水準で生活が成り立っている人達には当然それを変える理由がないので、改革に反対するのは極めて合理的な判断だとの認識を示しています。

 一方、それは裏を返せば、大阪市の現状に不満を持ち賛成票を投じるため積極的に投票所に足を運んだのは、現在の状況が不公平であり、自分達の支払った税金が適切に使われていないと感じる(一定の所得水準以上の)人達に他ならないことを意味しているということになります。

 つまり、今回の選挙における橋下市長と「維新の会」の最大の敗因は、反対に回ることが予想された高齢者の票を奪えなかったからではなく、20歳代や30歳代の若者層を投票所に向かわせることができなったところにあるというのが、この論評における橘氏の認識です。

 高齢者の投票率が高く、若者の投票率が低いのは世界共通の現象だと橘氏は述べています。年金に依存する高齢者が、(それを妨げる)政治の変化に敏感なのは当たり前のこと。一方、若者には仕事や恋愛などもっと大切なことがたくさんあって、(特別な働きかけがなければ)政治への関心が高まらないのはある意味仕方がないことだということです。

 今後、高齢者の意向で選挙結果が決まるという諦念がさらに広がれば、若者はますます政治に興味を失っていくことになるだろうと橘氏は言います。氏が感じているのは、こうした「デフレスパイラル」のような状況がさらに進行すれば、政治の世界でいずれあらゆる現状変更が不可能になるのではないかという懸念です。

 氏の指摘を待つまでもなく、今後、政治の力で社会の有様を変えていくことができるのは、現状にしがらみが少ない若者たち(の意見)であることは論を待ちません。

 折しも、選挙権年齢を「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げる公職選挙法改正案が、6月4日の衆議院本会議において全会一致で可決され、6月中旬にも成立する見通しとなっています。法律が成立すれば、来夏の参院選から「18歳選挙権」が実現することとなり、若者による政治参加の機会が実に70年ぶりに拡大することになります。

 残念ながら、今のところ、新たに参政権が付与される十代の若者達の中から、政治に自分たちの声を反映させようという動きが生まれているという話は耳にしません。そうした状況を鑑みれば、何を期待して今回の選挙権年齢の引き下げが実現することになったのかについて、学校などにおいて、当事者(学生)たちに十分に議論する機会を持ってもらうことが教育現場の責任と言えるかもしれません。

 閉塞感のある社会を時代に合わせてダイナミックに動かしていくためには、こうした千載一遇の機会を十分に活用し若者の政治への興味や関心を引き出すことが求められていることを、この論評から私も改めて強く意識したところです。




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