新型コロナウイルスの感染拡大に伴う措置として発令された政府の「緊急事態宣言」を受け、地域指定を受けた各都府県では、域内の飲食店の営業時間を午後8時まで(酒類の提供は午後7時まで)するいわゆる「時短要請」を行っています。
1月21日の日本経済新聞は、1月20日の夜に東京都の職員が都内の新宿、渋谷、新橋、池袋、吉祥寺、立川の6カ所の繁華街を目視で調査したところ、約2千店の対象店舗のうち、概ね95%が要請に応じていることが分かったと報じています。
東京都の発表によれば、調査を行った2027店の95%にあたる1927店が午後8時までに閉店しており、協力の割合は、立川が98%と最高で、新橋、吉祥寺が96%、新宿が95%、池袋が94%、渋谷が93%だったということです。
都が飲食店を対象とした調査を行うのは今回が初めてということですが、これから先、(世論やメディアのプレッシャーを受け)関係都府県でも同様の「パトロール」の動きが活発化することが予想されます。
もちろんウイルスへの「感染リスク」の観点に立てば、「要請」ではなく「義務」、「時短」よりも「営業休止」の方が効果があることは論を待ちません。
しかし、消費者の利便性や雇用への影響などを考え合わせれば、要請への協力に迷いを覚える経営者を一概に悪者扱いするわけにもいきません。
飲食店の営業時間の短縮は(少なくとも現時点では)あくまで「要請」の段階であるということ前提に、昨年4月の宣言下で話題となった「自粛警察」の動きも含め、行き過ぎた対応には(それなりの)注意が必要のような気もします。
そこで(効果的な成果を得るための政策論として)問題となるのが、時短要請に応じた店舗への営業補償、政府の言うところの「協力金」をどのように支給するのかということでしょう。
同じく1月21日の日本経済新聞は、新型コロナ流行による緊急事態宣言で営業時間の短縮に応じた企業の7割程度が、都道府県からの協力金で収支がプラスになると推計されることがわかったと報じています。(「協力金、恩恵に格差大きく」2021.1.21)
政府が示した営業時間短縮店舗への協力金は、国の8割負担で都道府県が支給しているもの。1店舗あたり日額上限は当初2万円だったものを20年12月に4万円に倍増し、21年1月からは緊急事態宣言の対象地域などは6万円まで引き上げています。
事業者の規模にかかわらず、時短協力した日数で一律で支給することとされており、例えば1都3県のように2月7日までの1カ月間継続して協力した場合、支給額は合計で186万円となる計算です。
一方、総務省の2016年経済センサス調査によれば全国の飲食業の店舗(持ち帰り店などを除く)は49万8100店。食材費などの変動費や人件費、家賃、公租公課(税など)といった費用は総額で月1兆1718億円なので、単純に割ると1店舗あたり平均コストは235万円になると記事は記しています。
これを売上高の階層別にみると、家族経営のような年間収入300万円未満の(零細な)事業者では店舗あたりのコストが月13.5万円かかり、それが「300万~1000万円」の事業者では月37.7万円に増える。さらに「1000万~3000万円」の事業者では月107万円ほどかかるようになり、規模が大きくなるほどコストは膨らむということです。
そこで、現実を見ると、飲食業は零細事業者が多く、推計では全国の店舗の7割程度で総コストが月186万円を下回ると記事は説明しています。
とすれば、宣言の発令された11都府県でも、7割程度の店は(たとえ)売り上げがゼロになっても協力金で店舗のコストをまかなえる計算になる。小規模の飲食店は外出自粛が進む現状ではどうせ客は入らないし、協力金のほうが営業するよりもうかると考える経営者はかなりの割合を占めるはずだということです。
そうした状況もあって、協力金の支給水準の決定に当たっては、財務省が「1日6万円の水準は高すぎる」と反対した経緯も聞いていると記事は説明しています。しかし、その際、菅義偉首相が最終的に「時短営業の徹底に必要」と判断し、6万円に戻したということです。
一方、売上高が「3000万~1億円」の事業者になるとコストは月297万円に上り、1日6万円の協力金でまかなえないことは明らかだと記事は指摘しています。
この規模以上の企業では、仕入れや従業員の給与を減らしたり、昼間の営業で収入を得たりしない限り協力金では赤字になる。ファミレスや居酒屋などのチェーン店も含め、外食大手は総じて厳しい状況にあるというのが記事の認識です。
こうした声を受け、協力金の対象を中小企業や個人事業主に絞ったことで批判を浴びていた東京都も、1月18日(後追いではありますが)協力金の対象を大手にも広げると発表しました。
もちろん、それでも1店舗あたり1日6万円では(大手にとっては)「焼け石に水」。コストをまかなえないことは明らかで、都内を中心に大手各社では店舗を閉める動きが速まっているということです。
大規模事業者のこうした動きに関し、各地に展開されているチェーン店の店舗の閉店や経営難は、特に雇用への影響が大きいことが問題になると記事は指摘しています。
店舗数では飲食業全体の3割にとどまる年間売上高3000万円以上の事業者は、従業員数ベースでは7割を超える。事業者の声を受け、野党各党も従業員数や店舗面積など事業規模に応じた「補償」を要求しているということです。
実際、新型コロナ感染拡大で都市封鎖に踏み切った主要国では、休業する飲食店などへの支援は規模に応じたものとなっていると記事は説明しています。
英国では、入居物件の課税評価額が大きい店舗ほど給付金の額を増やしている。ドイツでは、営業停止を強いられる企業や団体に前年同月の売上高の75%を支給しているということです。
こうした状況を踏まえれば、大規模事業者の不満を待つまでもなく、日本では規模に応じて迅速に給付する仕組みが乏しいと記事は言います。
(同紙の取材に対し)財務省は「本来は規模別で金額を決めるべきだが、(協力金制度はあくまで臨時的な措置であり)制度が複雑になると支給が遅くなる」としている。しかし、時短要請が長引けば(それだけ)影響も大きくなるというのが記事の指摘するところです。
さて、今回の「協力金」を「売り上げの保証」とみなす考え方には政府内にも様々な議論があるでしょうが、それでも今、政府に求められているもののひとつが(特に労働集約的な産業分野において)企業に現在の厳しい状況を何とか切り抜けてもらい、雇用を維持できるよう集中的な支援を行うことであるのは間違いないでしょう。
そのためにも、公平と信頼を担保できるような支援策の在り方について、政策技術としての精緻な議論を早急に進める必要があるのではないかと、私も改めて感じるところです。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます