MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2223 ポスト・アベ 自民党が向かう先

2022年08月08日 | 国際・政治

 2006年以降、第一次、第二次と内閣を率い、通算8年以上にわたって憲政史上最長の在任期間を誇った安倍晋三元首相。2年前の首相退任後も与党自民党の最大派閥の領袖として政権に大きな影響を与え続け、(評価は人それぞれとしても)その存在感は他の政治家の及ぶところではありませんでした。

 そうした意味で言えば、まさに「意、半ばにして」凶弾に倒れた安倍氏の功績に対し、主要国のリーダーたちが挙って急逝を惜しむメッセージを寄せた様子に、改めて「日本の顔」としての氏の重みを感じざるを得ません。

 特に、2012年の暮れに始まった第二次安倍内閣については、「安倍劇場」「安倍広告代理店」とも言うべきドラマチックな動きを、実に様々な形で切り取ることができそうです。

 (振り返れば)「アベノミクス」「三本の矢」「一億総活躍社会」「地方創生」「働き方改革」などなど、現在でも口にされる息の長いキャッチフレーズを次々と繰り出し「これでもか」と見せていくその手法は、ムードメイキングのお手本のようなものでした。

 無論、各国首脳から評価されているように、対外的には「地球儀を俯瞰する外交」の名のもとに、自身が先頭に立って各首脳と個別に交流し、人間性を発揮したのは記憶に新しいところです。

 一方、長期にわたった安倍政権の「負の側面」として、官邸への権力集中と、流行語ともなった「忖度」の構造化を挙げる識者も多いようです。

 東京大学教授の槇原出(まきはら・いずる)氏は、7月23日の「週刊東洋経済」誌への寄稿(「長期安定政権が残した忖度の構造と人材難」)において、そもそも安倍首相は閣僚経験が官房長官しかない(霞ヶ関に確固とした居場所を持たない)「官邸政治家」だったと看破しています。

 そこで、安倍氏は、官邸に経済産業省出身の今井尚哉秘書官と警察庁出身の杉田和博官房副長官を中心とする官邸主導の体制を作り上げ、各省をコントロールすることとした。二人はいずれも(親元では)事務次官級ポストの経験がない人物で、だからこそ官邸官僚が(事務次官を飛ばして)直接、各省官僚を指揮する体制が作られたと氏はしています。

 政策によっては、大臣も事務次官もなく、官邸中心で政策が推進されていくという事態もしばしば生まれた。これに内閣人事局を通じた官邸による各省幹部の人事選定がなされると、忖度構造が徐々に形を成すことになったということです。

 そして気が付けば、官邸への忖度は各省の官僚にとって日常の風景と化していった。政権後半の不祥事は、おおむねこの忖度の構造から生じたものだというのが、この論考で氏の指摘するところです。

 さて、こうして政権を(ある意味)個人の意のままに動かしてきた安倍元首相。そこで時間を現在に戻して、自民党の保守派を牽引した大きな柱が凶弾に倒れた今、安倍氏不在の影響はどのような形で今後の政治に現れるのか。

 東京大学教授の谷口将紀(たにぐち・まさき)氏が、7月20日の日本経済新聞掲載された「財政・国土の持続性再構築を」と題する論考でいくつかの視点を提供しているので、その内容を(少しだけ)紹介しておきたいと思います。

 各国政治の専門家による評価によれば、自民党は世界的にみても最も右派的な政党に位置付けられる。それは同時に、自民党が社会・文化的な保守路線を維持してきたため、欧州諸国のような右派ポピュリスト政党の伸長が抑えられてきたことを意味するかもしれないと、氏はこの論考に綴っています。

 保守派としては、既成政党を批判して新党を設立するより、自民党内で政策実現を追求する方が影響力を発揮できる。こうして、ポピュリズム的な勢力をも(丸ごと)飲み込んで消化してきたのが、与党自民党だったということでしょう。

 実際、過去の選挙時に実施された候補者アンケート調査に対する岸田文雄首相の回答をみても、安倍元首相や菅義偉前首相と大きな差はなく、岸田氏を穏健保守と呼びうるか疑問は残ると谷口氏は言います。

 だが大平正芳、宮沢喜一両元首相らを輩出してきた宏池会の会長であること、6月に閣議決定された骨太の方針での防衛費や財政健全化の書きぶり、さらには防衛事務次官人事を巡り対立したことなどから、岸田首相は安倍氏と距離があるとのイメージが定着しつつあるというのが氏の認識です。

 そうした中で、今回の参院選で急進右派的な主張を掲げる政党が続出し、参政党のように議席を獲得したケースがみられたのも、岸田氏を穏健派ととらえたうえでの反動の一種ではないかと氏は指摘しています。

 自民党内では安倍氏は保守派や積極財政派にとって最大の後ろ盾であるとともに、彼が「撃ち方やめ」とすれば党内が収まるキーパーソンでもあった。保守派の重鎮にして最大派閥の会長不在という事態が、岸田首相による政権運営にどのような影響を及ぼすかについては、しばらく予断を許さないというのが氏の指摘するところです。

 保守派から改革派まで、安倍氏の(強い)キャラクターの下で、各世代の要請をキャッチ―に取り込んできた自民党も、ここにきて大きな変革の時期を迎えることになるのでしょぅか。

 躍進する「日本維新の会」や、参議院に新たに議席を獲得した「参政党」の元気の良さなどを見るにつけ、これから先の自民党の立ち位置について十分目配りしていく必要があるのだろうなと、谷口氏の指摘から私も改めて感じたところです。



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