MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2151 子どもを産んだら(いきなり)二級社員

2022年05月09日 | 社会・経済

 「働き方改革」「一億総活躍社会」の流れを受けてか、この春のクールに始まったテレビドラマには「働く女性」をテーマにしたものが多いようです。

 例えば、女優の今田美桜さんが主演を務めるドラマ『悪女(わる)~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?』(日本テレビ系)では、男性中心の会社組織の中で、最近ではあまり流行らない「出世」を目指して頑張る女性たちの姿を描いています。

 また、上野樹里さん主演の『持続可能な恋ですか?~父と娘の結婚行進曲~』(TBS系)では、ブラックだったOL生活に別れを告げヨガインストラクターとしての起業を目指す女性の結婚観を描き出しています。

 さらに、先日始まった『メンタル強め美女白川さん』(テレ東系)では、井桁弘恵さん演じる(美人)OLが会社で生きていく上での数々のストレスを、テレ東ならではの軽いノリでコミカルに表現しています。

 いずれのドラマも、男社会に抗いながら働く女性の苦悩が描かれている部分は共通しており、ストーリーを追いながら「うん、そうだよね」とか「あるある…」といった会社女子たちの共感の声が聞こえてくるようです。

 総務省が毎年発表している労働力調査では、35~39歳女性の労働力率は既に75%を超え過去最高に近い水準となっています。女性の就業率が子育て期に著しく下がる「M字カーブ」も近年解消し、女性の活躍が進んだといわれてきたといわれる昨今です。

 しかし、その一方で、女性の雇用者のうちの半数以上(55%)がパートタイマーなどの非正規労働者であり、その割合は男性の2倍以上。さらに、例え正社員であっても女性の管理職比率はわずかに13%に過ぎず、米国の39%、イギリスの37%、フランスの35%などに遠く及ばないという現実も聞こえてきます。

 ジェンダーギャップ指数が世界で120位(2021年)と言われるこの日本において、女性が働くというのはかくも厳しいものなのか。4月14日の総合経済サイト「PRESIDENT Online」に作家の橘玲(たちばな・あきら)氏が、「子供を産むといきなり二級社員になる…大卒女性より高卒男性を昇進させる日本企業の残念すぎる実態」と題する(ある意味)ショッキングなタイトルの論考を寄せているので、参考までにここで紹介しておきたいと思います。

 1985年に男女雇用機会均等法が施行され形式的には男女平等なはずなのに、この日本における管理職の男女格差はきわめて大きなまま放置されていると、橘氏はこの論考に記しています。

 例えば、学歴と性別と役職の関係について。日本は世界でも唯一、大卒の女性よりも高卒の男性が早く昇進する国だと氏はしています。一般的に、先進国と言われるような国の企業では、役職と学歴はリンクしている。当然、管理職の比率は大卒が多く、高卒が少なくなる。これは世界中で「そうなっている」一つのルールだと氏は言います。

 しかし、世界にひとつだけ、この原則が通用しない国がある。高卒の男性が、大卒の女性よりもはるかに高い割合で課長になれる国、それが日本だということです。

 それではなぜ日本では、大卒(総合職)の女性よりも、高卒の男性の方が早く課長に昇進するのか。実際、60歳で定年などを迎える時点で高卒男性の7割が課長以上になっているのに、大卒女性は2割強と半分にも満たないという現実があると氏は指摘しています。

 そこで興味深いのは、ある要素を調整すると男女の格差はなくなって、大卒の女性も男性社員と同じように出世しているということ。その要素とは、なんと「就業時間」だということです。

 「そんなバカな!」と思う人もいるかもしれないが、実際、就業時間を揃えると大卒女性は男性社員と同じように昇進している。驚くべきことに、日本の会社は残業時間で社員の昇進を決めていると氏は話しています。(参考:山口一男『働き方の男女不平等 理論と実証分析』日本経済新聞出版社)

 女性が会社という組織の正式メンバーとして認められるには、無制限の残業によって滅私奉公し、僻地や海外への転勤も喜んで受け入れ、会社への忠誠心を示さなければならない。そしてこれが、「子どもが生まれても働きたい」と思っていた女性が、出産を機に退職していく理由にもなっているというのが氏の見解です。

 会社勤めの人ならわかるかもしれないが、日本の(ある程度大きな)会社では、幼い子どものいる女性社員のために「マミートラック」と呼ばれる仕事を用意していると氏はしています。

 これは、子育て中のお母さんを「男性や独身女性と同じように働かせてはかわいそうだ」という(ある種の)温情とされている。しかし、(こうした)残業しなくてもいいマミートラックに居るかぎりは(その)忠誠心を示すことができず、組織の正式メンバーとは認めてもらえない。当然、給料も上がらず昇進もできないということです。

 これまで対等の関係だったのに、子どもができたらいきなり「二級社員」のように扱われ、同期ばかりか後輩にも追い抜かれていくというのは、優秀で真面目な女性ほど耐えがたいことだろうと橘氏はこの論考に綴っています。

 こうして彼女たちは力尽き、燃え尽きて専業主婦になっていく。日本の雇用問題は、正社員と非正規の待遇格差や、女性管理職の少なさといったことに留まらず、(こうして)あらゆるところに「身分」が出てくることだというのが氏の指摘するところです。

 親会社と子会社の待遇格差も典型的な身分差別と言える。親会社から出向してきた社員と子会社のプロパー社員では、同じ仕事をしているにもかかわらず給料に差があるのを日本のサラリーマンは当然だと思っている。こんなことは海外の会社では到底許されないと氏は言います

 日本企業が海外進出する際に本社採用と海外支社の現地採用を分けるのも、国籍差別以外のなにものでもない。現地採用の社員から「同じ仕事をしているのに、なぜ私は給料が安いんですか?」と訊かれたときに、「お前が日本人じゃないからだ」と答えている会社はいまでもたくさんあるのではないかということです。

 「母親になった」というだけで、能力も高くやる気もある多くの女性たちが、組織の第一線から外されていく。男社会に育まれた組織の下では、体育会系のブラックな環境で同じ時間を過ごすこと自体が重要で、そうした苦労を共にしなければ正規メンバーの資格はないと考えられているということなのでしょうか。

 かくして日本企業は、世界でもまれにみる特別な企業文化(と低い企業パフォーマンス)を持つに至った。日本企業が誇る「メンバーシップ型雇用」の実態は、そうした情緒的な仲間意識に貫かれた差別的な不合理性をもたらしているということでしょう。

 日本の常識は世界の非常識。日本企業のこうした実態を前に、「あまりにも身分社会にどっぷり浸つかってしまったために常識すらなくなってしまった」と話すこの論考における橘氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。

 



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