MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2089 働く女性へのペナルティ

2022年02月15日 | 社会・経済


 新型コロナの影響の長期化によって、人々の行動様式は変容し、働き方ばかりでなく仕事に対する考え方自体も多様化の様相を示しているようです。

 長引くコロナ禍をきっかけにテレワークが定着しつつある中、新たな働き方をさらに採り入れる企業も多くなりました。満員の通勤電車に乗って社員全員が定時に出社していた時代は徐々に過去のものとなり、様々な勤務形態を選べる職場も増えてきています。

 子どもの保育園がコロナで休園になってもフレキシブルに対応できる。自宅で家族の介護が必要な状況になっても時短勤務で仕事が続けられる。(そんな風に)人生の転機や家庭の事情に仕事(の仕方)の方を合わせていく時代が、もうすぐそこまで来ているのかもしれません。

 人材派遣会社大手のアデコグループが昨年末に、コロナ禍で働く日本全国の男女800人に対して実施した調査によれば、「コロナ禍の前と後で、今後の生き方についての考え方は変わったか」との質問に、約4割となる36.5%が「変わった」と回答したということです。

 特徴的なのは、男性で「変わった」と回答したのは34.1%であったのに対し、女性ではそれが44.5%に及び、10ポイント以上の有意な差がついたこと。今回のコロナ禍は、やはり男性よりも女性の感性に大きな影響を与えていることが見て取れます。

 因みに、コロナ禍の前と後で「今後の仕事や働くことについての考え方が変わった」と回答した234名に対し、「具体的にどんなことについての考え方が変わったか」と質問したところ、最も多く挙がったのは「働き方(時間・場所など)」(64.5%)で、以下、「仕事へのモチベーション」(53.0%)、「仕事の進め方」(45.7%)と続いたということです。

 こうした結果を見ると、今回のコロナ禍は、企業にとっても個人にとっても、これまでの「仕事」の在り方を見つめなおす大きなターニングポイントになっていることがよくわかります。

 このような状況の中、1月7日の日本経済新聞のコラム「Analysis」に、経済産業研究所上席研究員の北尾早霧(きたお・さぎり)氏が「分断回避へ「制度の壁」なくせ」と題する論考を寄せているので、参考までに小欄で紹介しておきたいと思います。

 一昨年来の新型コロナウイルス禍は、正規・非正規や男女間など、様々な格差と分断を改めて浮き彫りにしたと、北尾氏はこの論考の冒頭に記しています。世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数で、日本は156カ国中120位、先進国では圧倒的な最下位に甘んじている。基準4項目のうち、経済・政治参加の低スコアは致命的で、健康で高い教育を受けた人的資本が生かされていないというのが氏の認識です。

 中でも、近年問題視されているのは、(日本では)人口の半分を占める女性の能力が生かされていないことだと氏は言います。多くの女性の就業と収入増には(この日本ではいまだに)実質的な重いペナルティが課されており、(特に)既婚女性へのゆがみが大きいということです。

 例えば、妻が年収を「103万円の壁」の手前に抑えれば所得税はかからず、配偶者控除で夫の所得税も軽減される。同じ基準で配偶者手当を支給する企業も多いので、超えた場合はダブルパンチになると氏は言います。さらに夫が社会保険に加入していれば、年収を130万円に抑えることで、第3号被保険者として年金・医療・介護保険料の支払いが免除される。壁の手前から壁を越えることで世帯の手取りは増えないどころか激減するのが現状を顧みる必要があるということです。

 さて、令和に入り4年制大学への進学率は男女とも50%を超え、労働市場参入当初は雇用形態・賃金とも男女間で大きな差はなくなったが、結婚や出産を機に男女格差が決定的となると氏はここで指摘しています。

 多くの女性が壁を前に就業調整を行い、20~30代で急減する正規雇用の割合はその後上昇せず、復職の大半は非正規雇用となる。そのゆがみの弊害は個人レベルにとどまらず、(中長期的なマクロ経済・財政への影響の試算でも)女性の参加は成長を促し財政収支を大きく改善させるが、雇用形態や賃金に変化がなければ大半の効果は消えてしまうということです。

 非正規雇用者のままでは経験を積んでも所得増は期待できない。多くの女性が103万円や130万円の壁の手前でブレーキをかければ税・社会保険料も増えず、何より景気変動のショックに見舞われた際に非正規社員が雇用の調整弁とされることは、金融危機やコロナ危機後の分析でも明らかだと氏はこの論考に綴っています。

 結婚と出産がその後の生涯にわたる収入減と所得リスク増と引き換えなら、女性の教育水準向上と機会費用の上昇とともに、家族形成(つまり、結婚や子どもを作ること)へのハードルが高まるのも当然だというのが氏の見解です。

 さて、年間出生数は過去5年で16%減少し、2020年には約84万人。この減少ペースが続けば30年後の出生数は現在の3分の1にまで減っていく計算になります。既婚女性に課されたペナルティをこれ以上放置することは、もはや社会全体に悪影響しかもたらさないのは火を見るよりも明らかです。

 高度成長期へのノスタルジーと決別し、新しい時代の労働環境をどのように作っていくか。古い役割分担を前提とした(時代遅れの)制度に、本当に守られたままでよいのか。コロナ禍を一つの契機として、まずは女性自身が大きく声を上げていく必要があると思うのですが、果たしていかがでしょうか。



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