MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2665 黒人やヒスパニックがトランプ氏に投票するワケ

2024年11月09日 | 国際・政治

 11月5日に投開票されたアメリカの大統領選挙において、勝敗のカギを握る激戦州を次々と制し返り咲きを果たしたトランプ元大統領。得票総数を見ると、実際トランプ氏はハリス現副大統領に500万票以上の差をつけているようです。

 一方、ハリス氏の得票数を見てみると、前回2020年の選挙でバイデン現大統領が獲った票数よりも(ハリス氏の得票数の方が)1400万票も減っている模様。得票状況を見る限り、これでは「トランプ氏が強かった」というより「ハリス氏が弱かった」ということになるのかもしれません。

 では、どのようなカテゴリーの人が誰に投票したのか。11月6日の米紙ワシントン・ポストによれば、(出口調査の結果では)今回の大統領選で男性の54%が共和党のトランプ前大統領に投票する一方、女性の(同じく)54%が民主党候補のハリス副大統領に投票したとのこと。また、大学の学位がある人のうち57%がハリス氏に、学位のない人の54%がトランプ氏に投票したとされています。

 一方、各候補の支持者を人種別に見ると、白人のうち55%がトランプ氏を支持し、黒人の86%がハリス氏を支持した由。また、ヒスパニック(中南米系)では、ハリス氏の支持率がトランプ氏を8ポイント上回ったとされています。

 さて、人種的マイノリティグループが、同じマイノリティの血筋を持つハリス氏を支持するのは判りますが、それでも黒人やヒスパニックの中にもトランプ氏の熱烈な支持者は以前から多かったと聞きます。そして今回、(前回選挙の時よりも)その支持層が大きく拡大していると聞けば、その理由はどこにあるというのでしょうか。

 国際ジャーナリストの中岡望氏が11月7日の「Yahoo news」に寄せた『選挙結果の背後にある政治の構造変化と進むZ世代の保守化』と題する論考の中で、10月13日の米紙「ニューヨーク・タイムズ」の記事『なぜトランプは黒人やヒスパニック系の有権者を獲得しているのか(Why is Trump Gaining with Black and Hispanic Voters?)』の指摘を紹介しているので、小欄にも概要を残しておきたいと思います。

 2016年の大統領選挙の際、メキシコ移民を「強姦犯」と呼び、今回も不法移民の大量に強制送還を主張するなど厳しい移民政策を掲げているトランプ氏。そこまで蔑まれているにもかかわらず、なぜヒスパニック系有権者はトランプ候補に投票するのか。同記事はその理由として、以下の5つを挙げています。

 一つ目は、一部の黒人やヒスパニック系の有権者は、トランプ候補の人種差別的な発言をほとんど気にしていないということ。

 記事によれば、黒人の約40%、ヒスパニック系の43%が、不法移民の流入を阻止するためにメキシコとの国境に壁を建設することを支持し、黒人の41%、ヒスパニック系の45%が不法移民の強制送還を支持している由。記事は、「トランプのポピュリズム的、保守的なメッセージには、黒人やヒスパニック系が共鳴するものがたくさんある」と指摘しています。

 2つ目は、トランプ候補の人種差別的な発言に対して、少数派であるが一部の黒人やヒスパニック系は「それほど気分を害してない」とのこと。調査に対し、ヒスパニック系の40%は「トランプの発言に気分を害している人はトランプの言葉を真剣に受け止めすぎている」と答えていて、ヒスパニック系の53%、黒人の5%は、「トランプの発言に不快だとは思わない」と答えているということです。

 一度永住権を手にし、米国民となってしまえば(もはや)自分には関係ないということでしょうか。大らかというかお気楽というか、リベラル派の人々が大騒ぎするほど、当該者は気にしていないということなのでしょう。

 そして3つ目は、民主党は、黒人やヒスパニック系の支持を得るために人種平等を主張する必要があると考えているが、彼らにとって(それより)重要なのは経済問題であるということ。トランプ候補に投票した多くの有権者はバイデン政権の経済政策に不満を抱いていており、トランプ候補の経済政策に期待したのだろうということです。

 さらに4つ目は、「希望と変化の終焉」というもの。ハリス候補は「希望」と「変化」を主張したが、黒人やヒスパニック系の有権者は「民主党に投票しても何も変わらない」と感じていたとのこと。

 同記事は「黒人やヒスパニック系の有権者は民主党の意図を疑っているわけではないが、結果には失望している」、「ハリスが自分たちの生活に変化をもたらすと確信している黒人やヒスパニックはほとんどいない」と綴られているということです。

 そして、最後の5つ目は、トランプ候補が若い黒人やヒスパニックの最大の支持を獲得していることだと記事はしています。

 記事によれば、トランプ氏は45歳以下のヒスパニック系男性の55%(ハリス氏38%)、同じく45歳以下の黒人の69%(ハリス氏は27%)の支持を得ているとのこと。特に若者は、2016年の大統領選挙でのトランプ候補の強烈なイメージを追うリベラル派や高齢者とは(その印象・取っ付きからして)異なる由。

 公民権運動を知っている世代はいなくなり、共和党に違和感を抱かない若い世代が増えている。黒人とヒスパニック系は民主党の支持基盤であるという考えは、もはや通用しなくなりつつあるというのが記事の指摘するところです。

 さて、日本流に考えれば、ラストベルトに代表される白人社会の不満を背景に、特に移民排斥などを訴え力を伸ばしてきたトランプ氏を黒人やヒスパニックが支持するのは合点がいきませんが、彼らにとってすればそんなイデオロギーなどよりも、「明日のパン」「明日の雇用」をなんとかしてくれる候補の方が有用だということでしょうか。

 選挙戦においても終始、荒唐無稽は発言を繰り返してきたトランプ前大統領ですが、「それでもトランプ時代の方がマシだった」「このままではジリ貧。カマラなんかに任せておけない」と考える何千万のもアメリカ人がそんなトランプ氏の後ろにいることを、私たちは忘れるわけにはいかないのでしょう。



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