MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯326 非正規雇用はなぜ増えているのか

2015年04月02日 | 社会・経済


 バブル崩壊以降、政府による「聖域なき構造改革」政策のもと、有期契約労働者、短時間労働者、派遣労働者といったいわゆる「非正規雇用」で働く労働者の割合が増加を続けているとの指摘があります。実際、2014年には、雇用者全体に占める割合が約4分の1を超える25.7%(1,962万人、前年比+56万人)となり、過去最高の水準に達しているということです。(総務省「労働力調査」)

 メディアなどからは、こうした非正規雇用の増加が、20~30代の若者の生活を不安定化させる大きな要因になっているとの指摘がなされています。また、近年の非正規雇用の拡大については、正規雇用者との待遇上の「格差」という視点から、(いわゆる「派遣村」など)大きな社会問題として取り上げられることも多くなりました。

 就業期間を「3年未満」とする者が約4割を占めていることからも判るように、(非正規雇用者は正規雇用と比べて雇用調整の対象となりやすいなど)雇用の不安定さが非正規雇用の問題点としてまず指摘されています。また、支給される賃金が、(一般的なスキルを有する労働者同士の比較で)正規雇用者の概ね3分の1から3分の2の水準にあることから、賃金面の改善も同時に求められているところです。

 加えて、正規雇用と比べて能力開発機会が不足しているため非正規雇用者としてのキャリアが社会的に評価されにくい状態あり、就業実績がその後の展望に繋がり難いといった課題もあります。さらに言えば、雇用保険や厚生年金などの各種制度が適用されない場合も多く、生活上のリスクが生じやすいことなども問題視されているところです。

 Web上で活躍するジャーナ・ブロガーの不破雷蔵氏は、3月7日の自身のブログにおいて、これまでこうした「負の側面」が強調されることの多かった非正規雇用者の現状を様々なデータから分析し、「なぜ非正規社員として働くのか、その理由とは」と題する興味深い論評を行っています。

 まず、データから追っていきます。

 総務省(統計局)が行った「労働力調査(2014)」では、非正規雇用の労働者に対し「なぜ現職についているのか」について主な理由を聞いています。

 その結果、男性では「正社員としての仕事が無い」とする回答が最も多く27.9%となっている一方で、「自分の都合の良い時間に働きたい(22.7%)」「専門的な技術などを活かせる(13.1%)」「家計の補助・学費などを得たい(12.4%)」など、積極的な理由から非正規で働く人々が全体の約4分の3を占めている状況にあることが判ります。

 また、女性で最も多かったのは「自分の都合の良い時間に働きたい」で26.3%、そして「家計の補助・学費などを得たい」が25.5%で並んでいます。一方「正社員としての仕事が無い」とした女性は、全体の13.6%に留まっているということでした。

 全体で見ると、「自分の都合の良い時間に働きたい」とした人が462万人で最も多く、次いで「家計の補助・学費などを得たい」が392万人と続き、「正社員としての仕事が無い」は331万人で3番手(非正規雇用者全体の16.9%)ということになります。

 次に、同じ設問への答えを世代別に見ると、男性では「家計をサポートするため」「時間の都合のよい時に働きたい」が若年層と高齢層の双方で多いのに対し、「正社員としての仕事がない」と答えたのは35歳から55歳までの(いわゆる「働き盛り」の)中堅層に多いことがわかります。また、女性では逆に34歳までの若い世代ほど「正社員としての仕事がない」と回答しており、男性との差異が特徴的なものとなっています。

 さて、この論評において不破氏は、これらのデータを読み解くに当たり」、問題点を単純に「正社員としての受け皿が少ない」ことに求めるのは早急ではないかと述べています。

 氏はその理由のひとつを、需給のミスマッチにあると見ています。

 完全失業者などの失業理由でも、現在では雇用する側とのミスマッチの存在がその大きな要因として指摘されている。非正規社員の「正社員の仕事が無い」とする意見においても、当然、類似の傾向(つまり、「望む仕事」で正社員になれない…という状況)があることを想定しなければならないということです。

 氏はまた、定年退職後の再雇用制度のもと中高齢層が非正規社員として雇用される事例が増えており、これが雇用者全体の中での非正規雇用の割合を数字として底上げしている可能性が高いことをこの論評で示唆しています。

 非正規雇用者(2011年)の内訳を見ると、「高齢者」(620万人)と「学生」(119万人)、そして女性の「その他パート(世帯主の配偶者であるパート・アルバイト」(432万人)でその大半を占めていることがわかります。

 一方、直近となる2013年から2014年にかけての増減を年齢階層別に見ると、20~34歳代の若年層で正社員数が増える一方で、中堅層以降では正社員は減少傾向にありそれ以上に非正規社員数が増加しているということです。

 そこから推測すれば、高齢層の退職と非正規としての再就職、さらには中堅層以降の女性によるパート・アルバイトによる就労機会の増加が、非正規社員数の増加をもたらした主要因と見るのが適当ではないかというのが、データの分析から得た不破氏の見解です。

 労働市場の構造変化、つまり産業構造に占めるサービス産業の拡大が進むことで、日本の雇用環境全体としては柔軟性に富んだ非正規社員のニーズが増大していることは論を待ちません。

 そんな中、労働力の供給面から見れば、(言い方は悪いのですが)団塊の世代を中心とした(スキルを持った元気な)定年退職者がこれまで経験したことのない規模感で日本中に溢れており、早期退職制度による中途退職者の増加が、それに拍車をかけているという現実があります。

 さらに、(正社員の賃金の停滞もあって、)子育てが一段落する中身近な場所でパート・タイムの仕事を求める高学歴で能力と意欲にあふれた女性たちがその存在感を増しています。

 生産年齢人口の減少が日本経済の規模を縮小させる原因として強く懸念されている現状において、高齢者と女性の労働参加は、政治的にも喫緊の課題と考えられています。

 そうした中、データを見る限り、(例え質的、時間的な制約があっても)働ける人、働きたい人の受け皿となり、柔軟な就労環境を提供しているのが、いわゆる非正規雇用だと言うこともできるかもしれません。

 このように見ていくと、従来型の「正規雇用」が増えればそれだけで労働力の需給が正常化し、雇用情勢が安定するのかと言えば、どうやら現実はそんなに単純にはいかないようです。

 正しい状況を把握せずに全体的な、表面的な数字だけを振りかざし、(「非正規雇用=悪」として)正義のバッシングの機運を高めれば、数年前の派遣叩きとその結末同様の愚が繰り返されてしまうことになる。

 「木を見て森を見ず」的な判断を下さないよう、心から願いたいとするこの論評における不破氏の指摘を、非正規雇用が拡大する現在の雇用環境を読み解くための一つの視点として、私も大変興味深く読んだところです。




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