人材派遣の大手「マンパワーグループ」では、役職についていない正社員20~50代の男女400名を対象とした、「管理職への昇進希望」に関するアンケート調査を2020年に行っています。その結果、回答者の8割超が「管理職になりたくない」(83.0%)と回答。男女別では、女性で「管理職になりたい」と回答した人の割合は男性よりも有意に低く、特に30代では、男性30.0%に対して女性16.0%と、その割合は男性の約半分に留まっていたとされています。
近年では、「女性活躍」の掛け声の下、各企業で女性管理職を増やす動きが進んでいます。何かといえば「多様性」や「ダイバシティ」が重視されるこの時代、(対外的にも)女性管理職を増やしたいという企業の思惑はよくわかりますが、(調査結果からもわかるように)管理職になりたくないと考える女性も多いようです。
実際、気づかいや責任が増えるばかりで給料が大きく上がるわけでもない。会議が増える一方で残業代も出なくなったりと、デメリットばかりが目につきます。経験を積んできた(ある意味「適任」の)男性を押しのけて管理職に就くことで、起こさなくていい摩擦の中に身を置くことなどに、二の足を踏む女性がいることも理解できます。
振り返れば、今より上の世代では、大企業の女性管理職と言えば、秘書や営業などを極めたスペシャリストの内部昇進組や、東大卒、帰国子女のバリキャリ転職組などと相場が決まっていました。しかし、ここ数年で環境は大きく変わり、男性とともに「普通に」仕事をしてきた女性社員が、上司から次の時代を担う管理職として期待されるようになっています。
そして、そうした中で生まれるのが、「望まない管理職」に登用され、とまどう女性たち。家庭では、良き妻、受験生を抱える母親などとして振舞いながら、一方で職場のマネジメントに悩む彼女らの複雑な胸中を思うと、「ガンバレ!」と声の一つもかけたくなるというものです。
なぜ、この日本の社会において、業務のマネジメントを担う管理職へのステップアップはサラリーマンを幸せにしない(ことも多い)のか。7月6日の総合経済情報サイト「PRESIDENT Online」に、拓殖大学教授の佐藤一磨氏が「日本人の6割が管理職になりたがらない納得の理由」と題する論考を寄せているので、参考までに紹介しておきたいと思います。
厚生労働省の『平成30年版 労働経済の分析』によれば、非管理職の61.1%が「管理職に昇進したいと思わない」と回答したとされている。昇進を望まない理由として「責任が重くなる」「業務量が増え、長時間労働になる」等が挙げられており、(この結果は)「管理職に昇進しても苦労するだけ」「管理職へ昇進しても幸せになれない」と考えている人が多いことを示唆していると、佐藤氏はこの論考に綴っています。
人は管理職に昇進しても「幸せ」にはなれないのか。(詳細は省きますが)佐藤氏が行った調査を見る限り、管理職に昇進しても(昇進した本人の)幸福度への寄与は見られなかったと氏はこの論考に記しています。この結果は男女両方に共通しており、昇進1年前から昇進3年後時点まで幸福度に増加の動きはなく、「管理職に昇進することが幸せにつながる」という明確なエビデンスは確認できなかったということです。
そして次は、金銭的なメリットについてです。研究によって、男女とも管理職で働くことで年収は増加したが、所得に対する満足度は上昇していないことが判ったと氏はしています。年収は増えても、満足はしていない。これは、管理職で働くことの金銭的な報酬が、(負担の増加に比べて)十分ではない可能性を示していると氏はしています。
また、管理職で働く女性に関しては、余暇時間満足度と仕事満足度が低下していく傾向もみられたと氏は言います。この結果は、管理職で働くことによって生じる「負担」が、女性で特に大きい可能性を示唆しているということです。
さらに、管理職と健康の関係についてです。氏の調査では、女性では管理職に昇進した2年後に、男性では管理職に昇進した1~3年後に自己評価による健康度が悪化する傾向が示されたと氏は説明しています。
つまり、これらの結果をまとめると、「日本では管理職に昇進しても幸福度は上昇しないし、健康状態は悪化する」ということ。まるで「いいことなし」のこの結果には、「パパも課長さんになった」などと喜んでばかりもいられないようです。
こうして、管理職に昇進しても幸福度が上昇しない背景には、仕事から得られる「報酬」と「負担」が相殺しあっている可能性が考えられるというのが、この論考で氏の指摘するところです。
管理職へ昇進すれば確かに年収は上るし、対外的な地位も向上する。地位が高くなることで得られる達成感はあるだろうし、家族がいれば昇進の喜びを分かち合うこともできる。しかし、同時に業務量や労働時間、責任が増え、体もつらく、精神的にも苦しくなっているのではないかと氏は話しています。
自分の仕事に加え、部下のマネジメント業務も加わり、責任は増えていく。さらに、働き方改革関連法の施行によって時間外労働の上限規制が強化される中、部下が終わらなかった仕事を管理職が引き受けている可能性もあり、こうした積み重ねが近年、管理職の負担を増大させる一因となっているということです。
このような状況が続けば、勿論、男女問わず管理職になりたいと考える人が減ってしまうのは当然だと氏は話しています。特に、女性の管理職への昇進が政策的な視点から重要な論点となっている現在、管理職の労働環境の改善はさらに重要な課題になっているというのが氏の認識です。
まずは、(中間管理職に割り当てられた)業務量や労働時間の軽減を検討すること。加えて、金銭的な報酬も増加させる必要があると、氏はこの論考で指摘しています。
「なんとか管理職に昇進したのに、大変なだけで割に合わない」…しばしば口にされるこのような愚痴話が実感をもたれないためにも、管理職の待遇改善が今求められていうと説く佐藤氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。
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