4月24日、ニューヨーク外国為替市場で円安が一段と加速し、円相場は一時1ドル=155円37銭まで下落。1990年6月以来、およそ34年ぶりの円安ドル高水準を迎えていると各メディアが報じています。
報道によれば、アメリカ経済の堅調によりFRB(=連邦準備制度理事会)の利下げが遅れるとの見方が広がったことで日米の金利差が意識され、円を売ってドルを買う動きが一段と強まった由。政府・日銀による市場介入に一定の警戒感はあるものの、ドル・円の金利差を背景に投機筋なども加わって、さらなる円売りをしかける動きもみられるということです。
思えば、2021年の春ころの対ドル為替相場は108円/ドル前後で動いていたわけですから、円はこの3年余りで国際的に3割以上の価値を失った計算です。これではいくら定期預金の金利が0.02%に上がっても、たとえ賃金が4%上がっても、生活が追いつくはずがありません。
そう言えばついこの間まで、多くの関係者が「金融政策の転換が行われれば円安基調は収まる」と口にしてきたはず。日銀が「マイナス金利の解除」という政策転換を実施したにもかかわらず、(それでも)なぜ円安は進んでいるのか。
こうした疑問に対し4月23日の総合情報サイト「Newsweek日本版」に、経済評論家の加谷珪一(かや・けいいち)氏が『マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」の理由』と題する一文を寄せていたので、参考までに概要を小欄に残しておきたいと思います。
為替相場というものは(あくまで)相対取引で決まるものであり、相手が存在する以上、日本側の要因だけで市場を動かすことはできない。現時点で(政府による)為替介入は実施されていないが、仮に行われたとしても抜本的に円高トレンドに戻すのは難しいだろうというのが今回の円安にかかる氏の認識です。
そうした中、仮に円高に転じることがあるとすれば、それは日銀が本格的な利上げに舵を切り、膨張したマネーを吸収するフェーズに入った時だとこの論考で氏は指摘しています。
日本円は過去3年間で、1ドル=100円台から150円台まで3割も減価。一連の円安については、アメリカの金利が高く日本がほぼゼロ金利なので、マネーがドルに流れていることが原因と説明されてきたと氏は言います。
その論理でいけば、日銀が利上げに転じれば円高になるとの予想が成立するはず。実際、多くの専門家は日銀が政策転換を表明すれば円高になると説明していたが、フタを開けてみると、むしろ円安が進んでいる状況にあるのは周知の事実です。
その理由はどこにあるのか?加谷氏はここで、(前述のように)為替というものは2国間の相対的な関係性で決まるため、例え日本が金利を上げても、相手国の金利がさらに高ければ状況は変化しないと説明しています。
インフレが進むアメリカは(現在)簡単に利下げできるような環境になく、一方で日銀はマイナス金利を解除したとはいえ、日本経済は急激な金利上昇には耐えられない。こうして、アメリカは金融引き締めが続き、日本は金融緩和が続くということで、円安は進みやすい状況にあると氏は言います。
さらに言えば、アメリカの中央銀行に当たるFRB(連邦準備理事会)は、過去2年間で1.5兆ドル(約230兆円)もの資金を市場から回収している一方、日銀は600兆円のマネーの回収が全く進んでいない。加えて日銀は今後も国債の買い入れを継続するとしており、市場にマネーが供給され続けるのは皆が知るところだということです。
マネーの供給過剰はインフレ要因となるため、市場は日本の物価上昇は簡単には止まらないとみている。日米の金利差が縮小せず、日本のインフレ予想が高まっている状況では、(当然)為替市場には円安の力学が働くというのが現状に対する氏の認識です。
今回の日銀の政策転換は、日本にとっては大きな変化かもしれないが、日米両国という視点で見ると状況は何も変わっていないと氏は断じています。結果として、円安が進みやすいという環境はそのままであり、円安基調は(少なくともしばらくは)続くだろうということです。
多くの関係者が「相手」の存在を見落としてしまうのは、「これ以上円安が進んでほしくない」という感情が論理的判断を邪魔するからだろうと、氏はこの論考の最後に記しています。一方、市場というのはあくまで「冷徹」なもの。感情的に否定したところで現実のファンダメンタルズを変えることはできなというのが氏のまとめるところです。
今後、為替市場は日本にとってさらに厳しい状況になる可能性が高く、望まない事態が次々と起こるだろうと氏は厳しく予想しています。こうした局面でなおさら必要になるはあくまで冷静な対応だと話す加谷氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。
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