厚生労働省が6月7日に発表した2018年の人口動態統計によると、一人の女性が一生に産む子どもの数を示す合計特殊出生率は1.42と前年を0.01ポイント下回り、3年連続で低下したとされています。
少子化対策に力を入れている政府ですが、令和7(2015)年までに出生率を1.8まで回復させるという目標達成への道のりはまだまだ遠いと言わざるを得ません。
2018年に生まれた子供の数は、前年よりも2万27668人少ない91万8397人と過去最少。 母親の年齢別出生数を見ると、40歳以上の出生数は約5万3千人で45歳以上の出産が1659人(前年比147人増)と増加するなど、特に晩産化の加速が顕著になっています。
また、同調査によれば2018年の婚姻件数も昨年より2万428組少ない58万6438組で戦後最少だということです。平均初婚年齢は夫31.1歳、妻29.4歳でこちらは5年連続で同年齢だったとされています。
安倍政権は少子化対策として保育所の増設や幼児教育の無償化など取り組んでおり、都内や政令市では待機児童が減少するなどの成果も上がっていますが、その一方で現在の少子化対策の多くが出産後の負担軽減に軸足を置いているのも事実です。
こうした状況を考えれば、まずは若者が未来をポジティブに受け止め、(ある意味、気軽に)「結婚したい」とか「子供が欲しい」とか考えられるような社会が必要だということでしょう。
政府が6月18日に閣議決定した2019年度版「少子化対策白書」によれば、若者に「どのような状況なら結婚するのか」をたずねたところ、「経済的に余裕ができること」が42.4%で最も高く、「異性と知り合う機会があること」が36.1%で続いたということです。
また、結婚していない理由については「適当な相手に巡り合わない」との回答が46.8%で最多だった一方で、このうちの61.4%が「特に何も行動を起こしていない」と答えおり、特に男性にそうした傾向が強いとの指摘もありました。
結婚するためには(まずは)経済的な余裕が必要と考え、さらに「適当な相手に巡り合えるような環境を求める彼ら、彼女らが求める生活は一体どこにあるのか。
こうした疑問に答えるかのように、6月19日の日経新聞(都内版)は「東京への女性流入鮮明 転入超過数首都圏で9割」と題する興味深い記事を掲載しています。
晩婚や非婚化が原因とされるが、見落とされている論点がある。それは都市にばかり日本の女性が集まる「女性の都市化」だというのが記事の認識です。
中でも2018年の東京都への女性の転入超過数は4万8千人、男性の転入超は3万4千人で年々その差は開きつつある。出生率は低いものの、働きやすい都市に女性が集中し、少子化に拍車をかけていることです。
東京への女性の転入超過数が男性を上回ったのは2009年から。その時点では転入超過の男女差は約3500人だったが、9年後の18年には約1万4千人にまで広がり地方から来た女性が東京にとどまる傾向が強まっていると記事は説明しています。
一方、全国の合計特殊出生率が1.42なのに対し、東京都は1.20で全国最低を記録しています。高い家賃や長い通勤時間、薄い地縁など、決して子育てしやすい環境とはいえない地域に女性が集まっている状況が見て取れるということです。
特に、地方出身者が東京で子育てをする苦労は多いことでしょう。国立社会保障・人口問題研究所の人口移動調査では、地方から大都市に移動した女性は大都市で生まれて大都市に住み続ける女性より、初婚後に産む子どもの数が少ないことが判ります。
同研究所の林玲子・国際関係部長は、その理由を「育児をサポートしてくれる親が近くにいないことが出生率を下げているのでは」と見ているということです。
こうした状況を踏まえれば、日本の子どもを増やすための対策は大きく二つ。一つは首都圏で保育園に入れない待機児童を減らすなど、子育てしやすくすること。もう一つは若い女性が地方に定着できる環境をつくることだというのが記事の見解です。
記事によれば、地域別の出生率を分析しているニッセイ基礎研究所の天野馨南子・准主任研究員は「地方では男女平等に働ける場所が少ない。結婚や出産でパートなどへの職種変更を迫られないような職場づくりが必要」と指摘しているということです。
日本の子どもを増やすには、都市の少子化対策が急務であることは(おそらく)間違いない。さらにそればかりでなく、余裕のある子育てや日本全体の発展には「地方を変える」視点も必要ではないかと、記事は少子化対策の論点をまとめています。
実際、いつまでも変わっていかない地方には、若い女性を引き留めておくだけの魅力がなさすぎるのではないか。地域の狭い人間関係の中で「母親のようには生きたくない」…そう考え都会に向かう若い女性たちは(もしかしたら)私たちが思っている以上に多いのかもしれません。
素敵な人と結婚はしたいけれども、結婚するためには生活の余裕と出会いが必要。そうしたあこがれや願いを胸に東京暮らしを嗜好する女性たちを、一体、誰が止めることができるでしょうか。
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