ニッセイ基礎研究所のHPに掲載されていたシニアリサーチャーの天野馨南子氏のレポート「日本の未婚化を正しく解釈する-若者の希望と違った応援議論はなぜおこるのか(2023.9.11)」によると、国内の年間の婚姻数は57,2万件(1987年)から37.1万件(2021年)へとこの34年間で64.8%の水準にまで下がったとのこと。
しかし一方で、国立社会保障・人口問題研究所が定期的に行っている「出生動向基本調査」を見る限り、2021年の最新調査結果でも男女ともに結婚意志は継続的に8割を超えており大きな変化は見られない。つまり、現実社会で未婚化が進む中でも日本の若い男女は決して結婚したくなくなったわけではなく、結婚願望が実現しづらくなっているところにこそ、問題の本質があるというのが氏の指摘するところです。
それでは、若い人たちの結婚へのハードルは、なぜそこまで上がっているのか。この疑問に関し、9月14日のPRESIDENT Onlineがマーケティングライター牛窪 恵氏の近著『恋愛結婚の終焉』(光文社新書)の一部を紹介しているので、参考までに小欄にもその概要を残しておきたいと思います。
牛窪氏によれば、2014年に内閣府が行った「結婚・家族形成に関する意識調査」において、20~30代の未婚かつ恋人がいない男女(約6割)のうちのおよそ4割(37.6%)が「恋人が欲しくない」と答え、その最大の理由は「恋愛が面倒(だから)」(46.2%)だったということです。
同じく内閣府の「男女共同参画白書(’22年)」を見ても、20~30代独身女性の約4人に1人(24.1%)、同男性の4割弱(37.6%)が、いま恋人がいないどころか過去の交際経験すらないとしている。しかしその反面、同年の時点で男女ともに8割以上が、「いずれ結婚するつもり」と答えていると牛窪氏は指摘しています。
つまり、若者たちは少なからず「恋人は要らない」「恋愛は面倒」だと考えながら、その多くは(それでもいずれは)幸せな結婚を成就させたいと考えているということ。それ自体は例えるなら、「受験勉強は面倒だからしたくないが、大学には入学したい」と言っているような矛盾したものだというのが氏の見解です。
未婚化の進行が顕在化している現在でも、若者たちの8割以上は結婚への意欲を捨てていない状況がある。それでは、私たちはどのように問題解決を図ればよいのか。そこで必要なのは「恋愛」という通過儀礼にこだわらず、「恋愛以外の要素(感情や決定基準)を結婚に発展させること」だと、牛窪氏は提案しています。
「恋愛結婚」のベースにある「ロマンティック・ラブ・イデオロギー」、すなわち「恋愛・結婚・出産」を三位一体だとする概念が根付いてから、日本ではまだ半世紀程度しかたっていない。私たちの多くが常識と考えて疑わない「恋愛結婚」も、60~70年前の日本では、大いなる“非常識”だったと氏は言います。
実際、マッチングアプリの市場は大幅に拡大しつつあり、SNSを通じた結婚など(恋愛プロセスを飛ばした)「いきなり結婚族」も増えている。一方で、妊娠出産を前提とした早婚願望は特に女性を中心に目立っており、「ぐずぐず恋愛なんかしていられない」「恋愛と結婚は別」と割り切る女性の声が少しずつ聞こえるようになってきているというのが、マーケティングの専門家としての氏の感覚です。
そうした中、結婚で重要なのは生活を続けられる『サステナビリティ(持続可能性)』であり、オシャレなレストランに詳しい男性は結婚後に浮気するし、冷蔵庫の余りもので子どものご飯を作る能力もないとこの著書には綴られています。
恋愛シーンにおいては、いまも若者の多くが、男性に「男らしさ」を、女性に「女らしさ」を求めている。それなのに、現実に結婚をイメージする場面では真逆で、男性は未来の妻に「経済力」を、女性は未来の夫に「家事・育児力」を求めていくことになると牛窪氏は話しています。つまり、恋愛の市場と結婚の市場には大きなギャップがあり、ニーズは180度違うということ。若者たちは(意識・無意識にかかわらず)そこに生まれるミスマッチや矛盾に気づき始めたからこそ、「恋愛と結婚は別」だと考え始めているのではないかということです。
さて、学校や家庭では『男女平等』と声高に言われてきたのに、いざ社会に出て、特に「恋愛」のステージとなると、いきなり『男らしさ』や『女らしさ』が求められるこの日本。いまだ「ジェンダーギャップ指数が146カ国中125位のこの国で、「恋愛」という(このなんとも面倒くさい)プロセスは(現実問題として)もはや無用の長物となりつつあるのかもしれません。
夢やロマンでは今晩の夕食は作れない。(安定した)結婚生活を成り立たせていくのは、余りものを使いながら生活を何とかししていく能力だと考える牛窪氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。
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