閣議決定された2016年版の「犯罪白書」によると、2015年に刑務所へ入所した65歳以上の高齢者は2313人で、現在の集計方法となった1984年以降の31年間で最も多く、受刑者全体占める割合も1割を超える10.7%に達しているということです。
一方、刑法犯の認知件数自体は、2002年の約285万件をピークに13年連続で減少を続けています。2015年の(刑法犯の)認知件数は109万8969件で、前年と比べ1割近く(9.4%)減って2002年の実に4割弱という状況です。これに伴って検挙人数も減少を続けており、2004年に約39万人であったものが2015年には約25万人にまで減少しており、日本がいかに犯罪の少ない国になっているかが判ります。
しかし、高齢者に限ってみれば、この検挙者のうちの4万7632は65歳以上のお年寄りが占め、20年前の約4倍、高齢人口の増加を大きく上回るペースで増加しているのが実情です。
因みに、これを罪状別でみると、暴行・傷害が前年比7.7%増の5523人。殺人(164人)や強盗(127人)も増加傾向にあり、こうした数字からは高齢者の犯罪が質的にも凶悪化していることが見て取れます。巷に元気な高齢者が増える一方で、高齢者の犯罪もより暴力的になっていることは、どうやら間違いのない事実のようです。
近年、「キレる高齢者」という言葉をよく聞きますが、例え犯罪には至らないとしても、高齢者の反社会的な行為が増えているとの指摘もあります。
例えば、日本民営鉄道協会の公表資料によると、鉄道の駅員等に対する2015年度の暴力行為(大手私鉄16社とJR6社など33鉄道事業者の合計792件)のうち、加害者が60歳代以上であった割合は実に全体の約4分の1、(他の世代よりも飛びぬけて多い)23.8%を占めているということです。
また、2013年に私立大学病院医療安全推進連絡会議が発表した院内暴力等の調査でも、私大病院の職員(医師、看護婦等)への「暴言」や「暴力」「セクハラ」など加害者は50代、60代、70代が多く、なかでも暴力に限って言えば70代が24.2%と最も多いことが判ります。
さらに、高齢者による万引き(←これは犯罪ですが)も増加していて、未成年の犯罪件数を大幅に上回っているとさるほか、企業のコールセンターに業務妨害に近いような要求をしてくる、いわゆるモンスター・クレーマーにも60歳代以上が多いという指摘があるようです。
社会の高齢化が進む中、感情の抑えが利かずすぐにキレてしまうこのようなお年寄りの増加に、私たちはどのように対応していったらよいのか?
2月14日のYahoo!ニュースでは、ジャーナリストの岩崎大輔氏が、まさに「キレるお年寄りにどう向き合う」と題する興味深いレポートを寄せています。
レポートは、こうした高齢者の精神の変調には、大きく二つの原因があると分析しています。精神科医の武藤治人氏(「さくら坂クリニック」院長)によれば、その一つは「老化に伴う脳の機能の低下」であり、もう一つは「社会的な環境変化に伴う心理的な要因」だということです。
人が年齢を重ねると脳内の神経細胞が減少し、徐々に萎縮していくことは広く知られています。そして、そうした脳の変性が行動にも変化として表れていくと武藤氏は指摘しているそうです。
氏によれば、感情や理性、意欲、思考を司る前頭葉が萎縮して機能が低下すると、感情を制御できなくなったり、判断力が衰えたりすることで性格に変化が生じるということです。穏やかだった人が急に大声を出して怒り出すようになったり、気配り上手だった人が傍若無人に振る舞うように変わったりするときには、脳に変化が起きている可能性が高いと武藤氏はこのレポートで説明しています。
さらに環境変化に伴う心理的要因としては、例えば、人との関わりが薄れることで自己肯定感が低下し、(相手にされない、構ってもらえないという)不満や不安がたまることで、ちょっとした出来事が怒りに転化する場合があるということです。
一方、(このレポートによれば)怒りのコントロールを推奨する「日本アンガーマネジメント協会」の安藤俊介代表理事は、この20年高齢者の間で「暴行」事件が激増していることについては、「老化」だけでは説明しにくいと指摘しているということです。
安藤氏はここで、戦後のベビーブーム(1947〜1949年)に生まれた「団塊世代」の高齢化に注目しているということです。
この世代は、高度成長期を仕事とともに生きた「会社人間」として知られています。平日は毎日のように残業し、上司が無理な命令をしても、社員の義務として我慢する。そんな「会社人間」が齢を重ねて束縛や制約がなくなった時、その解放感が影響を与えているのではないかという見立てです。
○○会社××部長などという身分証を首からぶら下げていれば、駅員を殴ることはないでしょうが、会社や肩書きから離れたことで、社会的なタガが外れたのではないか。若しくは、俺たちは(我慢して)ちゃんとやって来たのに、「お前らのその態度は何だ!」という思いもあるかもしれません。
さて、それでは、そうしたキレやすい高齢者とどう付き合っていくべきなのか。
岩崎氏のレポートによれば、老人問題について多数の著書のある精神科医の和田秀樹氏は、こうした高齢者と付き合っていくには「受容・傾聴・共感」が重要になると話しているということです。
「受容」はまず理不尽な話であれ、無条件に受け入れること。そして真摯に話に耳を傾けてあげる「傾聴」をし、さらに相手の気持ちに寄り添って「共感」の姿勢を示ことが大切だということです。
和田氏によれば、高齢者は「穏やかで怒らない」というイメージをまず捨てることが肝要で、高齢者はもともと「キレやすい」、「怒り出すとコントロールが利かない」ということを前提に接する必要があるということです。
昔から日本の先人がしていたように、高齢者を敬い、たててあげること。高齢者は順番待ちに耐えられないので優先してあげること。同じ話が繰り返されても、「なるほどね」と深く聴き入ってあげることなどが大切だということでしょう。
さらに岩崎氏のレポートによれば、高齢者に対する失礼な対応が、彼らの反発や疎外感を引き起こし、自己中心的な高齢者をますます生み出してしまっている可能性があるということです。
うんざりした顔で、「時代が違うんだから」とか、「年寄りは黙っていろ」とか、「はいはい、わかりましたよおじいちゃん」などと言えば、怒らなくてよい人まで怒らせてしまうことでしょう。
人間は誰でも年を取っていくものであり、「いずれ自分もそうなる」と思えば、横柄な高齢者にも(きっと)優しく接することができるのではないかと結ばれるこのレポートの指摘を、私も高齢者を立てている余裕がなくなった日本人のひとりとして、改めて反省を込めて受け止めたところです。
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